これを愛というのなら
「最近、ここへ俺たちや家族以外は出入りしてないよね?」


「してないよ」


この小野くんの質問の意図は盗聴機だよね。

今から、小野くんは相手側には知られたらマズい事を話そうとしている。

そのための確認。


「それなら大丈夫。あと、蓮が持って帰って来た誓約書って今ある?」


「うん!ちょっと待って?」


キッチンカウンターにファイルに挟んで置いてある誓約書を取りに行って、小野くんに渡す。


「ありがと。“KOBAYASHI”が蓮を拉致してまで欲しい物は間違いなく、この誓約書。でもね……この誓約書は偽物なんだ!」


「ちょっと待て!じゃあ、本物は?」


「賢ちゃんに本物は作成して貰って、預かって貰ってる。司法書士の賢ちゃんの所なら一番安全で、いざって時に法的書類として使える」


確かに安全で、絶対に相手の手には入らない場所だ。


「蓮は、2枚もサインを貰ってたってことだよね?おかしいって思われなかったのかな?」


「蓮がどういう風にサインを貰ってたかはわからないけど、俺は蓮なら出来るって任せただけ。それで、本物は帰りに賢ちゃんに届けて貰ってた」


あの日、二人が話していた内容を初めて理解して……

小野くんの裏の裏をよんだ策にも、蓮の巧みな交渉術にも改めて感心する。


「でも、どうして本物と偽物が必要なんだよ?」


「誰かとの取引を“KOBAYASHI”側が要求してきた時の為。実際に蓮が拉致されたけど、俺だったかもしれないし裕司だったかもしれない」


そうか!

三人が一度に拉致されることはないし、事実を知ってる蓮か小野くんが居ればこの策は使えるんだ!


「梓ちゃんならわかるよね?これからどうするか」


「うん!偽物を持って“KOBAYASHI”に行って、蓮を助けるんだよね?」


「その通り!」


「だけどよ、“KOBAYASHI”に行って…そう簡単に蓮を助けられるのか?」


大丈夫!と、小野くんが笑って。


「奈々枝のお義父さんはね、警視庁の刑事部長なんだよ!だから、いざって時はお願いしてある」


マジかよ!?

松田くん同様に、私も驚きだよ!

つまりは、“KOBAYASHI”に行く時は警察に待機してもらうってことだよね。


「必ず“KOBAYASHI”から、この中の誰かに連絡が入る。それまで俺たちと待ってられる?」


「うん、待ってる。それより、お腹空いてない?」


空いた!

松田くんの元気な空いた!に笑みがあふれて、何か作るよ。


「その方が気が紛れるし」


「じゃあ、お願いしようかな。でも蓮には内緒にしておかないと、怒りそうだな!」


「だな!あと、俺らが手を握った事も抱き締めた事も」


そうだね。


「梓ちゃん、やっと笑ったな」


それはね………二人のおかげだよ。

ありがとう。
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