これを愛というのなら
裏口には、冷たい視線を私たちに向けた瑠美さんの旦那さん。

その後ろには鋭い瞳の瑠美さんが立っていた。


こんな冷たい瞳をした人を私は知らない。

身体が一瞬にして固まって動かない。


察してくれた小野くんが、大丈夫だよ、と握っていた手を自分の方へ引き寄せてくれて、触れた小野くんの腕から小野くんの温もりが伝わって安心する。


松田くんにグッと腕を引かれた時、


「行こうか?」


冷たい声の旦那さんの後ろを着いて行くと、エレベーターに乗せられて最上階の社長室に連れて行かれた。

エレベーターの中でも松田くんが手を握ったまま背中に庇い、手を握ったまま小野くんが背後に立って庇ってくれていた。


ーーーーー。


「さて、持って来てくれた?」


「持って来たぞ!お前たちが欲しいのはこれだろ?」


松田くんが旦那さんに、ファイルごと差し出した偽物を瑠美さんが受け取り、

間違いないわ、と目を通して旦那さんに微笑む。



「お前たちに渡すもんは渡した!蓮と友恵を返して貰う!」


松田くんが私の手を離して一歩、旦那さんに近付く。

パンっと瑠美さんが手を叩くと、社長室のデスクの背後の扉が開いてーーー、

薄暗い中から、二人の男性に腕を捕まれて出てくる蓮と友恵さんの姿に、背筋が凍りついた。


殴られたんだろう蓮の口の端は赤紫色の痣が出来て切れていて、瞼の横は赤く腫れている。

それ以上に友恵さんは、顔には赤紫色の痣だらけで腫れていて、立っているのがやっとの状態。


酷い!最低!


思わず呟いてしまった私の手を強く握って引き寄せた小野くんは、


『梓ちゃん、裕司に俺が合図したら横の男二人を裕司が気絶させてくれるから、直ぐに蓮の所へ行って。いい?』


耳元で指示を出してくれる。

わかった、小野くんは?


『俺は、小林夫妻が手出し出来ないように止める』


蓮を見ると大袈裟に頷いてくれて、大丈夫だ、と言ってくれてるよね。



小野くんが、松田くんの背中を叩くと。

任せろ!と松田くんがまず、蓮の横に居る男の腕を掴んで捻り上げる。

一瞬の事で何が起こったかわからず固まっている私に、小野くんがいつの間にか旦那さんの手首を捻り上げていて、片手で瑠美さんの手首を掴んでいて。


「梓ちゃん!早く行け!」


小野くんが声で背中を押してくれて、蓮に駆け寄ると、松田くんが腕を捻り上げた男は気絶していて、友恵さんの横に居た男の腕を松田くんが掴んでいる。


「無事でよかった…」


涙を堪えて、蓮の腕を縛っていた縄を解くと。


「心配かけたな」


頭をポンっと撫でて、手を握って立ち上がらせてくれると、指を絡めて握り直して、小野くんが捻り上げたままの旦那さんの前に立って、私を背中に庇う。


「大輔、離していいぞ!」


小野くんが旦那さんの腕を離して、蓮と目配せした直後!


「お願いします!!」


小野くんが声を張り上げると、社長室のドアが開かれて数人の男性が入って来た。


警察だ!と、手帳を掲げて。


松田くんは友恵さんの横の男性を気絶させていて、友恵さんを支えて背中に庇っている。


私の身体の震えも蓮が、手を握り直してくれた瞬間に止まっていた。

ちゃんと握ってくれてる。

蓮の手が傷つけられてなくてよかった。




「あとはお願いしますね、お義父さん!」


小野くんのお義父さんの後ろにいた、刑事さんが旦那さんと瑠美さんを取り押さえて、気絶している男二人も担がれるように立ち上がらされて連行されて。


「連れて行け!」


小野くんのお義父さんの一言に、小林夫妻も連行されて、二人の瞳からは光が消えていた。


「お義父さん、ありがとうございます」


頭を下げた小野くんに、全くだ、と。

刑事部長の私を振り回すのは君くらいだ。


「だけどな……助かった!この会社は色々と問題があって目をつけてた…だから君がした勝手な取引と、盗ませた情報は目を瞑っておく。娘にも詳しく事情を聞いて懇願された。それから、暴行された彼女を早々に病院と警察署に、連れて行ってあげなさい」


「そうですか。責任持って彼女は連れて行きます。ありがとうございます」


「それにしても……君たち三人は素晴らしいチームワークだ」


「それは……光栄です!あとはお願します!」


「わかってる!早く帰って娘や彼女たちを安心させてやれ!」


はい!と、頭を下げた小野くん。

蓮も私も、松田くんも頭を下げた。


ありがとうございました、と。
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