これを愛というのなら
病室に入って来たのは、鈴木で。


私に駆け寄ると、大丈夫なんですか?と目を潤ませながら聞いてくれる。


「…うん…もう大丈夫だよ。ありがとね」



「あぁ~もう、よかった!だって…だって…」


と、潤んだ瞳から涙を溢しながら、何かを言おうとするから。


「おいっ、鈴木。とりあえず、落ち着いて座れ」


蓮が、自分の座ってた椅子に座るように促してくれる。


ありがとうございます、と座った鈴木は大きく深呼吸してから、

だって、の続きを話し始めた。



「今日の賄いをサロンに運んだの私で…坂口くんが、倉本さんはアレルギーあるからって…このカップにして下さいっての言われてたのに…間違えて、皆と同じカップを…渡しちゃって…」


ずっと鈴木は下を向いたまんまで。

きっと、自分が間違えたせいでって思ってる。


ねぇ、鈴木?と、私が鈴木の肩に手を置いたとき。


「自分のせいだって思ってるんだろうが、鈴木のせいじゃないからな」


そう言った蓮は、まだ下を向いたままの鈴木の頭にポンっと手を置いた。


でも、私が…間違えなかったら…


って、鈴木はヒクヒク泣いたまま。


どうしたもんか、と蓮を見ると、視線が合って、

蓮も同じことを考えてるんだろう、困った顔をしていた。


だから、、、



「鈴木、私の方を見て…」


ちゃんと伝えなきゃ、私は大丈夫だからって。

私を見てくれた鈴木に。


「さっき、蓮も鈴木のせいじゃないって言ったよね?私も、そう思ってる。間違えたのは、鈴木だけど確認しないで食べた私自身にも責任ある」



「だから、もう責任を感じて自分を責めなくて大丈夫。大事にも至らなかったし、今日中には帰れるから」


真っ直ぐに私の目を見て聞いてくれていた、鈴木は、


はい、だけど……


「すいませんでした」


座ったまんま深々と頭を下げた。


うん、と鈴木の頭を撫でると。


私を見て、にっこり笑ってくれた。


そう、鈴木はいつもニコニコしてる方がいい。


蓮を見ると、目が合って。

やれやれ、といった表情で微笑んでいる。




で、あの……


「これ、倉本さんの荷物…」


と、立ち上がった鈴木は、ずっと膝に抱えていた荷物を、鈴木の背後に立っていた蓮に手渡した。


「鈴木、ありがとう」


そう言うと、いえいえ、と首を横に振る。


「あっ!それと…南さんが、仕事が終わり次第来るって言ってました」


利香が来てくれるなら、利香にタクシーで送ってもらおう。

わかった、と頷くと。


「一旦、会社に戻るな。梓を送ってかなきゃいけねぇし」


そう、蓮が言うから、鈴木は蓮と私の顔を交互に見ている。

それを気にする素振りもなく、蓮は私のロッカーの鍵のある場所を聞いた。


鞄の中、って答えると。


漁るぞ。と鞄から鍵を出して。


「着替え、南に頼んで持って来てもらうよ」


と。

「南が来るまで居てくれるか?」


鈴木にそう言って、頷いた鈴木に、頼むなって返して。


「またあとで」


病室を出て行った。
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