これを愛というのなら
「本当に心配したんだからね!料理長から、蕁麻疹の原因聞いたけど…梓が確認しないで食べたって…もう!バカ!」


着替えを持ってきてくれた利香は、椅子に座って、 布団越しの私の足をポンポン叩きながら、

少し涙目になっている。


「ごめんね…ちょっとさ、今度の休みに蓮と出かけるから浮かれてた…」


はぁ~っと大きな溜め息をついた利香に、

重症だわ、と飽きれ気味に言われた。


「料理長もさ、みんなの前で、あんな事するし…ビックリよ!もう言われるでもなく、好きだってわかったでしょ?」


と、利香が言うから。


蓮と二人の時に、蓮が言ってた事を話すと。


ごちそうさま、と。


「よかったね」


って笑ってくれた。




「それより、鈴木から聞いたんだけど。チーフが一喝してくれたんだって?」


「そうそう!かっこよかった!惚れ直したわ!」


と、返した利香の瞳はうっとりしてるんだけど。

もしかして?


「利香の同棲してる彼氏って…チーフ?」


あっ、て顔をした利香は、照れ気味に頷いた。


たった今まで知らなかったよ。
利香はそんな事は何にも話さないし、付き合ってるなんて素振りも会社じゃ一切見せないし。



「付き合い出したのは、1年前なんだけどね。同棲を始めたのは、半年前なんだよね」


「そうだったの。でも、何で話してくれなかったの?」


「話そうと思いながら、タイミング失って…そのまま同棲始めちゃって…繁忙期に入って…また話しそびれて」


ごめんね、と利香は少しだけ、ハニカんだ笑顔。


「なるほど。で、利香は今…幸せ?」


すごくね、と笑った利香に。


「利香が幸せなら、私も嬉しいよ」


と、利香の手に手を重ねる。


「ありがとう。梓もさ、料理長と幸せになってよ!」


私の手を握り返して言って。


「この歳で…あんなに、いい男を逃がしたら勿体ないよ。ちゃんと捕まえときなよ」


って、さらに私の手をギュッと握ってくれた。


「そうだねぇ…って、利香こそ。チーフを逃がしたらダメだよ」


わかってるって言った利香の瞳は幸せそうで、心が温かくなった。


「でもさ、同棲するとお互いに嫌な所も見えてくるからね。梓にはよく愚痴ってるよね」


あぁ、確かに昨日も聞いたばかりだった。

最近、帰ってからも仕事ばっかりで構ってくれないって。


「だけどね。今日、思ったんだ。私が惚れた人が、この人で良かったって」


「それはそれは、よかったね。ごちそうさま」


もう、なによ!って照れながら言った利香と笑っていると。


看護師さんが入ってきて、点滴が外された。


帰っていいですよ、と言ってくれた看護師さんが出て行ったのを確認して。

着替えをすまして、背伸びをする。




「数時間も馴れないベッドに寝てると、身体が痛いよ」


「わかる!しかも点滴を繋がれてると、身動きも取れないんだよね…」


なんて、会話をしている所へ。


ドアをノックして、私が返事をすると。


蓮が入ってきて、

利香に、ありがとう、と言うと。


私の鞄を持って、帰るぞ、と頭にポンっと手を置いた。


私も帰るね、と言ってドアを開けようとした利香に蓮は、送ってくよって言ってくれたとき、

再びドアがノックされて、入ってきたのはチーフだった。
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