これを愛というのなら
今日は、全体朝礼の日で。

社員全員が、2つある披露宴会場の狭い方に集まっている。


「昨日は、ご迷惑と心配をおかけしてすいませんでした」


みんなの前で、頭を下げた。


その、朝礼のあと。

珍しく朝礼から来ていた社長に呼ばれた。



「もう大丈夫か?」


おそらく、チーフから聞いたんだろう。


「はい、大丈夫です。ご心配おかけしてすいませんでした」


頭を下げると、大丈夫ならいい、と。


「今日からまた頑張ってくれ。君にはまだ居てもらわないと困る」


そう言われた。

嬉しいのか嬉しくないのか、複雑な気持ち。

だけど、そこは。

はい、本当にすいませんでした。ともう一度頭を下げた。


蓮とのことを聞かれなかったのは、チーフが言わないでいてくれたんだ。


事務所内でも、誰も昨日の蓮とのことは聞いて来ないし。





「ありがとうございました」


社長との話が終わったあと、チーフのデスクに行って御礼を言うと。


「もういい。ただし、無理はするなよ」


チーフのいつもの穏やかな笑みを向けて言ってくれた。


はい、わかりました。と、チーフに背中を向けると、


倉本!と呼ぶと。


「利香とのこと、聞いたんだろ?」


振り向いた私に、そう聞いて照れくさそうにしている。


聞きましたよ、と答えると。


「昨日、帰ってから倉本には話したって聞いたよ。利香のことは、俺が幸せにする。だから、倉本は蓮に幸せにしてもらうんだぞ?」


って、わずかに微笑んだ。


少し前にも言ったが、アイツのこと頼んだ、と立ち上がったチーフは、

私の肩をポンっと叩いて事務所のドアの方へ向かって行った。



この時に、思った。


利香は、本当にいい男に惚れたね。

愛してもらってるね。

って、改めて。
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