これを愛というのなら
いつもと反対方向の路線に、

梓と乗ってやって来た二人の愛の巣。


今、繁忙期だよね?と思ってしまうくらいに、綺麗なんだけど。

だから、


「料理長って、何型?」


って聞いちゃうと、A型だよ、と。

納得した!

A型が二人揃ったら、この綺麗さは有り得るって。


「忙しい時期に、あまりに家が綺麗すぎだから聞いたんだけどね。いつ掃除してるの?」


私以上に、梓も料理長も忙しそうにしてるじゃない。

私も陽介さんも、休みの日なんて、買い物に出てダラダラして1日が終わるのに。

いつ掃除する時間と体力があるのよ。


「私も蓮も、散らかってたりすると落ち着かないから。気になった方がちょこちょこ掃除してるだけ」


なるほどね、と頷くと。

そんなに綺麗かなって、


梓は、とりあえずお茶入れるね、と。


「適当に座って待ってて」


って、ソファーにトレンチコートと鞄を置いたのを見て、


キッチンカウンターのスツールの、2つあるうちの1つに、コートと鞄を置いて、もう1つに腰を下ろした。



「私…ちゃんと聞いて、ちゃんと話せるかな?」


キッチンに立つ梓に、たぶん弱々しい声で聞く。


「利香がそう思うのよくわかるよ。でも、そういう事って…泣いてもいいから聞かなきゃいけないし、話さなきゃいけないって私は思う」


思わず、涙が溢れたのがわかったけれど、拭うこともせずに、そうだね、と頷くと。


まだ泣くの早いよって、梓は笑った。


そして、


「たぶん、チーフは蓮と来るはずだから、それまでに涙は止めとかなきゃ」


って、わざわざスツールまで来て、涙を拭いてくれる。

相変わらず、冷たい梓の手だけど、ものすごく温かく感じた。




ちょうど、そこへ。

玄関から、陽介さんと料理長の声がして。


「ほらっ!笑顔!」


梓が、私の頬をツンツンするから。

自然と笑顔になる。


笑い返してくれた梓。


泣き虫だけどさ、本当に梓は芯がつよいね。

私よりずっと。




料理長の後ろから、入って来た陽介さんは。

私の姿を見つけると、

やっぱりな、と呟いた。


そして、私に歩み寄ると。

頭にポンっと手を置いて、


「きちんと話そう」


私の大好きな笑窪の出る笑顔を見せた。



料理長から、鞄とマウンテンパーカーを受け取った梓と、キッチンで手を洗っている料理長を、

交互に見ると微笑んでくれている。


それは、私たちを見てなんだろうね。

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