これを愛というのなら
やっと、とりあえず1日5件の週末から解放されて。

平日も慌ただしかった日々から、

少しだけ静寂が戻ってきある日ーー。



「やっと見つけた!探したんだからね!」


厨房の勝手口を出た、右横にあるゴミ箱の影で。

煙草を吸っている蓮を見つけて、思わず叫んでしまう。

だって、どこを探してもいないし。

厨房で聞いても、知らないって言われるし。


「わりぃ。社長が珍しく厨房に来て、クリスマスディナーの事を聞いてくるから、真壁に押し付けて逃げてきた」


なにそれ!?

私も社長は苦手で。

蓮も苦手なのは知ってるけれど…


「その、クリスマスディナーの事で話があって探してたんだけど!」


私は立ったままで、上から見下ろす形で言うと。

いきなり手を握って、しゃがんでいる自分の方へ引き寄せるから。

キャッと声を上げた私の身体を蓮が、片腕で抱き止めてくれて。


「少しだけ、このまま」


耳元で言うから、背中がゾクッとなったんだけど。

それは、とりあえず今は良しとして。


「どうしたの?急に」


「あとで、ちゃんと話すから今は…黙ってろ」


しゃがんでいる蓮の足の間で、私もしゃがんでいる形で。

背中には蓮の腕が回されている状況で。

蓮の顔が間近にあって、私の後ろから見たら、キスでもしてるように見えるかもしれない。


だから、


蓮の腰辺りを叩くと、自分の方へ寄せられて。

鼻先がぶつかって、

本当にキスしてるみたいだよ。


蓮?と、その距離で言うと。


「この距離でしゃべるなよ。キスしたくなるだろ?今…かなり抑えてんだよ」


なんて言いながら、斜め方向に蓮が視線を移したと時。


腕の力が弱まって、私も蓮が視線を向けた方向を見ると。


A棟の社員の島田さんが、厨房の勝手口の横の、従業員出入り口から中に入って行くのが見えた。


「そういうことだ」


島田さんに気付いた私に、蓮はそう言って。


「クリスマスディナーの話は、厨房に戻って聞くよ」


もう社長は居ないだろ、と。

立ち上がった蓮は、私の手を取って立ち上がらせてくれる。




蓮が言った、そういうこととは。


島田さんに、繁忙期が終わった直後から、蓮が言い寄られているから。

それは社員の誰もが知ってるくらい、何かと理由を付けては、厨房に行って蓮に絡んでいる。


私は、蓮を信じているから気にしてないんだけど。

見兼ねた、利香が。


「梓っていう彼女がいるのに、付き纏うのやめなさい。料理長は、梓にベタ惚れだから無理だと思うけどね」


と、言ってくれたって鈴木から聞いたんだけど……

お構い無しって感じ。


蓮が、社長から逃げてきた場所の道路を挟んだ向かいには、従業員駐車場があって。

そこには、自販機がある。


私が蓮を見つけた時、そこに島田さんが飲み物を買いに来て。


見せつけるために、あんな行動をしたんだとか。


そんな私も、厨房の坂口くんにしつこく誘われてるんだけど……
< 69 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop