これを愛というのなら
「クリスマスディナーの料理のソースに、ゼラチン使うよね?」


「あぁ。前菜で、使うけど」


クリスマスディナーのメニュー表を調理台に置いての、会話。


さっきまで蓮の顔も、私の顔も。

いくら島田さんに見せつけるためとはいえ、2人だけの時の顔になっていたのに今は、蓮も私も仕事の顔。

ドアを開けた瞬間から、仕事の顔に戻る私たちはやっぱり…仕事人間だと思う。



「コンソメジュレかぁ…」


前菜と書かれている場所を指差して、蓮を見上げると。


「ゼラチンアレルギーのお客さんか…」


顎を擦りながら、呟いた。

蓮が、顎を擦るのは何かを考えている時の癖なんだよね。


「問い合わせがあったの。アレルギーあるんですけど対応出来ますか?って」


「…そうか…わかった。別のもんで考えるから、そのお客さん受けてあげろ」


「わかった。連絡先を聞いてるから、連絡入れとく」


料理を作る側の人からしたら、当たり前かもしれないけど。

蓮なら、そう言ってくれると思ってたよ!

それは、口には出さずに。


ありがとう、と言って厨房を出ようとした私の腕を蓮が掴んで。


「ちょっと待て!」


振り向いて、蓮を見上げると。

掴んでいた腕をゆっくり擦るように、手を握って指を絡めるから。


えっ?と言ってしまった私を見たまま、視線だけ横に流した。

蓮が視線を流した先には、坂口くんが居て。

私たちの方を目を逸らすことなく見ていたんだけど、

その視線は、私たちの手元に移動した。


だから、手をわざと握ったんだ。


そして。


蓮は握っている手を、自分の方へ引き寄せて。


「デザートはパティスリーに頼んでる。メニューを見る限り、使う予定はないと思うが…一応、パティスリー行って聞いてこい」


私にしか聞こえない声で、

蓮は、見上げている私の顔を覗き込むようにして言うと、手を離して。

坂口くんの居る方を見て、坂口!と叫んだ。
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