これを愛というのなら
「疲れたぁ……」


家に帰るとすぐ、脱いだコートも鞄もソファーに置いたまま。

二人同時に、同じ事を言って。

ソファーに腰を下ろしていた。


帰りの車も、珍しく無言で帰宅して。

お互いに、家に着いて一気に、緊張が緩んで、疲労感が出たんだろうね。



「何か、食べる気分にもならないな…」


蓮の肩に頭を乗せると、蓮がそう言うから。

私も、と言うと。

蓮がソファーの背もたれに寄り掛かるから、私の頭は自然と蓮の太腿に滑り落ちる。


「もう…このまま寝たい…」


呟いた私は、疲労感で蓮に文句言わなきゃって思ってた事さえも、どうでもよくなってくる。


「…そうだな。明日は和装って言ってなかったか?」


そうだ!忘れてた!


『二人とも細いから、私もタオル用意するけれど…倉本ちゃんもタオル多めに持って来てね』


山田さんに言われてたんだった…


「うん、だからタオルを用意しないと…」


起き上がった私に、朝でよくないか?と。


「もう、風呂入って寝ようぜ」


なんて、蓮が言うから。


「朝なんて無理だよ。出勤時間が早まったんだから…」


立ち上がって、蓮を見て言うと。


「そうだったな。風呂入れとくから、明日の用意しといてくれ」


立ち上がった蓮も、そう言ってくれて、お風呂場に歩いていく。


クローゼットから、普段は使っていないタオルを何枚か出して、紙袋に入れる。

他に要るものないよね?

疲れのせいで回らない頭を、フル回転させて。

蓮のVネックの白のインナーも、と思い出し。

それも同じ紙袋へ、と。





「何で和装はタオルが、そんなにいるんだよ?」


お風呂を沸かしに行ってくれた蓮が、クローゼットにいつの間にか来ていて。

紙袋を覗き込む。

知らなくて当然だけど、衣装に携わらなかったらわからないよね。

私たち、女子社員は入社して半年間は、貸衣装の本社で研修があるけど。


「着物の時はね、ふっくら見せるために胸やお腹にタオルを挟むの」


ふーん、とだけ言った蓮は。

立ち上がろうとして、よろけた私の身体を。

大丈夫か?と支えてくれる。


うん、と返事をすると、


「風呂入って寝るぞ」


私が用意した、下着類を持って、お風呂場へ行く背中を追いかける。



髪と身体を洗って、蓮に後ろから抱き締められながら湯船に浸かる。

温かさと安心感が、ゆっくりと身体を包み込んでくれて、眠気が一気に襲ってくる。


寝るなよ、と蓮の声が後ろから聴こえて、頷くと。


「上がるぞ!このまま浸かってたら本当に寝るだろ」


身体を離され、立ち上がって、見上げた私の手を取って立ち上がらせてくれる。



「髪、乾かすのめんどくさい…」


タオルを巻いて呟いた私に、バカ、と。


「風邪引くだろ?乾かしてやるから後ろ向け」


本当に眠いときの梓は手がかかる、と言いながらも、

髪を乾かしてくれる。


大好きな手で髪を乾かされるって気持ちいいんだ。

あまりの気持ち良さに、目を瞑ると。


「寝るなって!終わったぞ」


蓮に肩を叩かれて、ハッと我に返ると。


「俺も乾かすから、ちゃんと着て布団行ってろ」


ドライヤーを持ったままの蓮に、そう言われたけれど、


「いや…待ってる…」


何か今日は、すごく甘えたくて、甘えた声で言って。

蓮の素肌の背中に抱きついてみる。


「わかったから…とりあえず、下着と服だけ着ろよ」


と、言われて蓮から離れて服を着て、

髪を乾かしている蓮の背中に抱き付くと。

乾かしづらい、と言われて。


「甘えん坊な私は…いや?」


なんて言っていた。

きっと私なら、こんなに甘えられたら面倒くさい。


「嫌なんて言ってない。俺も着るから、少しだけ離れてくれ」


蓮の素肌が気持ち良かったのに…

渋々、離れて。

服を着た蓮に、抱っこ、としがみつくと。


仕方ねぇな、とお姫様抱っこをして。

ベッドに、そっと下ろしてくれる。


「ほら、おいで」


自分も横になると、甘い声で上を伸ばしてくれた、蓮の腕に頭を乗せて。

胸に顔を埋める。


「…蓮の…素肌に触れていい?」


答えを聞かずに、蓮のスウェットの裾から、背中に手を滑り込ませると。

冷てぇっ…、と蓮の身体がビクッと動いたけれど。


「温かいんだろ?そのまんま入れとけ」


優しい声音で、言って。

髪にキスをするから、

蓮から少しだけ離れて、見上げて。


「髪にじゃない…」


わざと、甘えた声で言うと。

口角を上げて、ここか?と親指で唇をなぞられる。

うん、と頷くと。

首筋に、手を置いて。

唇を噛みつくように重ねてくれる。


唇を割って入ってきた、蓮の舌が柔らかい隙間をまさぐって、水音が耳に響く。

蓮の舌が、私の気持ちいい所ばかりを刺激して。

唇の隙間から吐息が溢れる。


そんなキスされたら……おかしくなるよ。

だから、蓮の背中をポンポン叩くと。


「なんだよ?せっかく気持ちよかったのに…」


甘い艶やかな、低い声で緩やかに口角を上げる。


「…蓮が…欲しくなる…」


ボーッとしているせいか、ストレートな言い方になってしまうと。


「バカ…今日は抱かねぇよ…抱いてるときに寝られるのは…二度と勘弁してほしいからな」


私の頬を諭すように撫でて、優しく微笑むんだから。

ずるいよ…あんなキスしといて…

気持ちよかったって、あんな声で言っときながら……


でも、何も言えないんだよね。

蓮が言うように、抱かれながら寝てしまった過去があるから。

蓮は、私の寝息を聴いて、一瞬で萎えたらしくて。
散々からかわれて、信じらんねぇ、と大笑いされた。



「だけど、もう少しだけキスさせてくれ。寝てもいいから。気持ち良すぎるんだよ」


また、甘くて低い艶やかな声で。

今度は耳元で囁くから。

これが応えだよ、とばかりに自分から唇を重ねる。

私だって同じだよ。

蓮とのキスは気持ち良すぎて、止まらなくなる。

はじめて蓮とキスした時から思ってたよ。


自分から蓮の唇を割って、舌を入れると。

すぐに蓮が舌を絡め取ってくれて、

ほら、また私の気持ち良い所を刺激してくる。

私も、蓮の舌を追いかけるように、気持ち良い所に、舌を誘導する。

蓮も、私と同じ所が気持ちいいんだろう。

唇の隙間から、一瞬だけ蓮の吐息が溢れた。


終わりのみえない、止まらないキス。


水音と共に離された唇から、透明の糸が流れ落ちて、蓮の唇に掬われる。

そのあとも、散々、蓮に唇を弄ばれて……

いつの間にか私は、夢の中にいた。

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