これを愛というのなら
「梓!起きろっ!遅刻するぞっ!」


ゆっくりと瞳を開けると、私の頬に手を添えて。


「やっと起きたか。おはよ」


朝が弱い私は、一緒に暮らし始めてからは、だいたい蓮に起こされる。

蓮の形のいい柔らかい唇で。


早く用意しろ、と蓮に急かされて。


今は、蓮の車の助手席に乗って会社に向かってるんだけど。


「梓の鞄に、おにぎり入ってる。食べろ、ちゃんと」


蓮は、いつも朝ご飯を作ってくれる。

こうして、おにぎりやサンドイッチだけの時もあるけれど。

それだけでも、充分過ぎるくらい嬉しいし、ありがたい。


ありがとう、と。

蓮は?と訊くと、


「俺は、着替えるまで時間あるから厨房の余り物で、適当に作って食うから。気にせずに全部、食え」


そう言ってくれた蓮に甘えて、おにぎりを頬張ると。

唇に違和感を感じる。

ん?腫れてる?


「どうした?」


私が唇を触っているのに、気付いてバックミラー越しに、聴いてきたから。


「昨日、キスし過ぎた…唇が腫れてる…」


唇を噛むと、俺も腫れてるよ、と。

舌で唇を舐めた仕草が、艶っぽくて、朝からドクッと心臓が高鳴る。


「見た目ではわからないから、いいんじゃねぇの」


口角を緩やかにあげて、信号待ちの交差点で。

私の唇に、自分の唇を重ねられる。


相変わらず、不意打ちのキスには馴れない。


そして、


「和装の梓も楽しみだな」


笑いながら、アクセルを踏む蓮の横顔に。


私も楽しみ、と微笑んで。


「今日は、演出にないことしないでよ」


と、言うと。


さぁな、たぶんしない。


なんて…蓮らしい答えが返ってきた。


たぶんって……

朝、スマホを確認したら。

利香から " 料理長に演出にないことしないでって言っといてよ "と、LINEが入っていたのに……


利香、ごめん。

私には、説得は無理でした…
< 92 / 186 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop