これを愛というのなら
深紅の色打掛に、

ボブヘアをフワフワに巻いて、
色打掛の柄と同じ、大きめの牡丹の飾りを左サイドに着けている、梓。


白の着物に、同じ白の紋付羽織、
王道の黒の袴姿の料理長。


梓は可愛らしすぎで、
深紅の打掛が余計に、梓の可愛らしさを引き出している。

料理長は、なかなか抵抗がある新郎さんが多い、白の紋付き羽織を、難なく着こなしている。



和傘で相合い傘をしての新郎新婦の入場の時も、

しっかりと梓の肩に腕を回して、抱き寄せるように登場してくれる料理長。


梓は若干、笑顔が引きつっているように見える。

きっと、そんなに抱き寄せなくてもって思ってるんだろうね。


神前式では、指輪交換をしない代わりに、披露宴でするんだけど、

料理長は指輪を、跪いて梓の手を取って嵌めてくれるから……

ほら、また女性のお客様が騒いでる。



私の隣で見ていた社長に、


「昨日から思っていたんだが、あの二人は付き合ってるのか?」


って、聞かれたじゃない。

もう昨日からの二人を見て、気付いてしまったのなら、
隠してもしょうがないんだけど……

私の口から言ってもいいのか、不安になって。

様子を見に来ていて、私の隣にいる陽介さんを見上げると。

本当のこと言っていいぞ、と小声で言ってくれたから。

付き合ってますよ、と社長に返事をしちゃいました。


「そうか。まだ倉本には、寿退社されたら困るんだがな…」


社長なら、そう言うと思ったわよ。

梓の仕事ぶりを評価してるし、何かと頼りにしてるから。


「僕も困りますよ。でも、倉本が寿退社することになった時は、快く退社させてあげて下さいよ」


話を聴いていた、陽介さんが社長に私が言おうとしたことを言ってくれて。


「わかってるさ。今すぐじゃないならな」


さすがに、今すぐはないでしょう。

陽介さんが言うと、安心したように。

それならいい、と頷いていた。



「ついでに言っておきますが、僕と南も近いうちに結婚する予定なんで、その時も祝福してくださいよ?」


なんて、BGMが流れる喧騒の中で言っちゃった陽介さんに。

ちょっと、と言うと。


「そうか。わかった。で、南は寿退社するのか?」


驚いてるはずなのに、そんな顔も様子も見せずに、聞いてくる社長の貫禄に、
驚かされながら、


「いいえ。子供ができるまでは働きます」


答えた私に、助かる、と僅かに微笑む社長。

苦手は苦手だけど、以外と社員思いのいい男じゃない。


そのあと、それにしてもお似合いだな、と料理長と梓を見ている社長に。


「二人を急遽、代役に抜擢した私に感謝して下さいよ?きっと、ウェブカタログも今までにない、いい仕上がりになると思いますよ」


なんて言ってみると、そうだろうな、と。

ありがとう、南。


つい、嬉しくて。

陽介さんを見上げると、ふっと笑って。

ほんの一瞬、手を握ってくれた。

力いっぱい、強く。
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