愛を語るには、一生かけても足りなくて。
「その指輪なら、あのとき渡したオモチャよりは随分マシかな?」
だけど次の瞬間。彼が発した言葉を聞いたら、あっという間に目には涙がこみ上げた。
ああ──ユウだ。
今、目の前にいるのは間違いなく私が知っている彼だ。
まるで美術品のように端正で美しい顔立ちは、あの頃から変わっていないどころか更に洗練されたように思う。
穏やかに笑う彼の顔も、イタズラ好きなところも、あの頃からちっとも変わっていなかった。
だけど、いつも私が見る夢の中の彼は十二歳の、未完成な男の子のままだったから。
すっかり声変わりもして、私よりも頭ひとつ半近く背の伸びた彼は、私が知る彼ではなかった。
「な、なんで? どうしてユウがこんなところに……」
どうにか絞り出した言葉は、自分でもハッキリとわかるくらいに震えていた。
「どうしてって言われると困るけど、俺がこの店に立ち寄ったのは偶然だよ」
「う、嘘……っ。偶然で、こんなことあるわけないよっ!」
自分が今抱える感情が喜びなのか怒りなのか悲しみなのか、もうなにもわからなかった。
「あれからもう十五年だよ? ユウが、私だってすぐに気がつくのも変でしょう? だって私も、もう二十七になったし……」
いくら面影があると言っても、すぐに私がアヤメだと気づくなんておかしい。
実際、私は男性客がユウだと、本人に正体を明かされるまで気づけなかった。
「別に変じゃないだろ。だって俺が、アヤメを見間違えるはずがないし」
「……っ、」
「今だって、顔を見た瞬間にすぐにわかった。アヤメなら、どこでいつ、どんな出会い方をしていても、俺はすぐに気がつくよ」
未だに掴まれたままの手が熱い。
手が鼓動を打つ心臓に変わったみたいだ。