愛を語るには、一生かけても足りなくて。
 


「……あの俺、なんかめちゃくちゃバカっぽくない?」

「いやいや、めちゃくちゃ色っぽいって評判だぜ? まぁ、俺には眠そうにも見えるけどな。ハハハッ」


 ケイちゃんがカラカラと笑ったと同時に、再び車が滑るように走り出した。

 自分の顔を町中で見つけることも、ここ最近ではごく当たり前の、日常だ。

 ──俺が今の業界に入ったのは、約十年ほど前のこと。

 高校から帰宅途中のところをスカウトされて、大手芸能事務所【JNクリエイション】所属の俳優になった。

 初めはただなんとなく、バイト感覚のノリだった。

 実際、俳優といっても最初のうちは仕事らしい仕事なんて出来なかったし、フリーペーパーに載るモデルや、良くても、小さな会社の地方のテレビCMに出演する程度だった。

 ところがあるとき、とある有名監督の映画に主人公の学生時代役として出たら、それが思いのほか評判が良く話題になった。

 仕事が増えていったのも、そこからだ。

 今ではゴールデンタイムに放送される連ドラや、映画の主演もさせてもらえているし、ケイちゃん曰く、俺は今をトキメク人気俳優たちの仲間入りをしたらしい。

 
「ああ、そうだ。ユウ、また新しいCMが決まったぞ」

「ふーん。次はどんな企業?」

「ルーナってジュエリーブランド知ってるか? その手の業界では今一番勢いのあるブランドなんだが、来季のイメージモデルをお前に頼みたいってさ」

「へぇ」


 ジュエリーブランドか。正直、仕事以外ではアクセサリーを身につけることもないし、興味もない。

 だけど……ああ、そうだ。

 過去、たった一度だけ、異性にアクセサリーを贈ったことがあった。

 と言っても、くだらない、子供だましのオモチャの指輪だったけど。

 それでも俺が贈った指輪を見た彼女はとても幸せそうに微笑んで、『ありがとう』と鈴を転がしたような声で応えてくれた。

 
< 23 / 37 >

この作品をシェア

pagetop