愛を語るには、一生かけても足りなくて。
 


「……さて。そろそろ今日も終わりかな」


 遠い昔に置いてきたはずの思い出は、今でも胸にわずかな痛みを走らせる。

 私は今日もそれに気づかぬふりをして、店内につけられた壁掛け時計へと目を向けた。

 気がつけば、閉店まであと五分を切っていた。

 さすがにもう、クローズの準備を始めてもいい頃だろう。

 そう考えた私は、お店の扉まで歩を進めようとしたのだけれど……。

 カラン、カラン……。

 突然、扉が開く音が店内に響き、反射的に足を止めて顔を上げた。


「いらっしゃいませ」


 お客様だ。

 慌てて姿勢を正した私は、ゆっくりと頭を下げてお客様を出迎えた。


「え……?」


 すると何故か、そのお客様は私を見て驚いたように目を見開いて固まってしまう。

 え……? って、どういう反応?

 私は思わず首を傾げそうになったけれど、そのお客様──男性客は私を凝視したまま微動だにしない。

 
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