愛を語るには、一生かけても足りなくて。
 


「今日はプレゼントの品をお探しですか?」


 とりあえず、いつも通りに。

 心の中で自分に言い聞かせた私は、営業スマイルを顔に貼り付け男性客の答えを待った。

 そうすれば、再びゆっくりと彼の目がこちらを向く。

 え……?

 気のせいだろうか。

 その目がほんの少し、涙で潤んでいるような気がした。

 泣いてる? って、そんなはずないよね。

 そうして男性客は私の疑問を払拭するように数回瞬きをしたあと、長い脚を動かし、私のそばまで歩いてきた。


「あ、あの……」

「……はい。大切な人へのプレゼントの品を買いに来ました」


 発せられたのは、ほんの少し掠れた甘く低い低音で、耳に心地の良い声だった。

 不覚にも心臓がドキンと跳ねて、呆然と彼の顔を見つめてしまう。

 改めて見ると、茶色がかったビー玉のように綺麗な瞳を持つ男の人だ。

 私は彼とよく似た瞳を持つ人を──たったひとりだけ、知っている。

 
< 9 / 37 >

この作品をシェア

pagetop