異世界転生したから、楽しくスローライフを送りたい!!
シーナがルーチェの森の家へ移動して小一時間くらいで、予測通り本来そうそう森から離れない魔女がガルムトアの屋敷に訪れていた。
「おや? さっきまでここに緑の魔女もいたと思ったのに。 逃げられちゃったかしら?」
そんな発言をした赤の魔女は綺麗に波打つ金の髪と真っ赤な瞳の美人で気の強さがにじみ出ている。
「それを言うなら、赤の魔女さまこそなんの連絡も無しの訪問はこちらは何も準備が出来ず、おもてなしもままなりませんよ」
クランツも、そこそこ返せるのはそれこそ辺境という地を預かる貴族故。
他国からの侵略と、ここに住まう魔女の森を守り、領民の生活を整え守るのが辺境伯の勤めである。
そのためには王都の役人や官吏貴族ともやり合うのだから、交渉術には長けていると言えよう。
「別に、もてなされるために来たわけではない。 私は緑の魔女に次代が出来たと聞いて顔を見に来ただけよ? お隣だし、次の代とも私は付き合いもあると思うし」
ニコッと告げた言葉は確かに間違いではない。
しかし、それだけではないことは分かり切っている。
「そんなに急がずとも、春の魔女集会には次代も一緒に参加予定ですよ? その時に顔を合わせればよいのでは?」
言葉の裏は、いま会わせる気はないということが存分に含まれている。
「えぇ、私がせっかく足を運んだというのに。辺境伯は私を会わせずに追い返す気なの? 私、魔女なのよ?」
魔女、それはこの国では貴族と同等のいや、それ以上に地位が確立されている。
森のためなら、手段選ばずその森に関しての決定権をもっているのが魔女である。
所属する森の中でなら、その地では王の意思決定権より魔女の意思が優先されるものなのだ。
だからこそ、魔女の育成は先代から次代へとしっかり受け継がれていく。
しかし、このウォレント領の赤の魔女はここ近年での唯一の例外だった。
彼女は三十年前にウォレントの森の魔女となったが、先代とは一月しか過ごせず、代替わりに費やす時間が少なかった。
故に、魔女のしきたりには精通しないままに魔女として暮らし始めたのだ。
しかも、火魔法が得意な赤の魔女。
性格にも表れており、感情に任せて魔法を使いがちである。