星に願いを
穢れた血
「単刀直入に言うね。春彦とかぐやさん、二人は別々に暮らしてくれないか?」
「どうしてだ?」
「かぐやさんの血だよ。不老不死の力。かぐさんの血を飲めば、不老不死になる。もし、過って春彦がその血を浴びたら君も不死になるからね」
かぐやの不老不死の力は自分だけでなく、他人でさえもその力を受け継ぐことになる。不老不死の力は実在する。かぐやの血をなんらかの形で体内に取り込むことでその力を得ることができる。夏樹がこのことを知っているのは、俺がかぐやを助けたことで、彼女の存在が村中に知れ渡ってしまったのだった。
「俺はこの十一年間、かぐやの血を飲んだことがない。それは今後も変わりないだろう」
「本当にそう言い切れるかい?」
「何が言いたいんだ?」
「かぐやさん、不躾で申し訳ないけど、あなたは春彦のことが好きかい?」
「私は彦のことが誰よりも好きよ」
唐突な出来事に驚いた。かぐやは俺のことが好きなのか。夏樹との話し合いでそれを聞けるとは思っていなかった。嬉しいことには違いない。
堂々と言い切る、かぐやは凛としていた。
「春彦はかぐやさんのことが好きかい?」
「俺もかぐやのことが好きだ」
俺は今までかぐやを守ることを使命としてきた。だから、この十一年間で恋愛感情がはっきりと芽生えていたわけではない。今ならはっきりとわかる。かぐやを助けたあの日から俺はずっと好きだった。
「だとすると困るな。もし二人が、子供を授かる時に春彦は不死になるよ。それだけじゃない、二人が一緒にいることで何かしらの過ちがあるかもしれない」
不死になることで困ることがあるとでも言うのだろうか。俺にはわからない。
むしろ俺にとっては……。
「私たちの恋路を邪魔をするの?」
「そういうわけではないよ、かぐやさん、あなたは不死の辛さは誰よりもわかっているんじゃないかな?どんなに人を好きになっても相手は年を重ねて老いていく。それを目の当たりにしてるよね?」
「私は今まで、恋愛はしたことがあるわ。帝もそうよ。そのどれもがみな私の元から失ってしまったわ。でもね、夏樹さん、私は彦には不死にさせないと決めてるの」
「それはどうしてだい?」
「私は不死の力であなた達の村では忌み嫌われたわ。私の血は穢れてるとさえ言われてね。私の血を欲する人が数知れない。そのおかげで、村が滅ぼされかねないと言われたわ。彦には私と同じ道を歩ませないわ」
かぐやが軟禁以上に過酷な仕打ちを受けていた理由がわかった。今まで俺には何も話してこなかった。あの村はいわば保守的なのだ。それは仕方がないことで、しかし、かぐやの存在が良いか悪いかの問題ではないはずだ。俺にはかぐやをもっと自由に生きて欲しい。こうして大学に通うように。
「それはたとえ、春彦に危険が及ぶかもしれなくてもかい?」
「それは……」
かぐやの力は俺が思っている以上に計り知れないものだ。
俺に危害が及ぶ可能性は捨てきれない。
そうだとしたら、俺の中では一つの答えが出ていた。
「夏樹、俺には力がある。人の願いを叶える力がある。それはかぐやでも変わりない。かぐやが俺と共にいたいのなら、その願いは叶えられる。たとえ力を使わなくてもな」
かぐやと一緒に外の世界を歩きたい。それが俺の答えだった。
「彦……」
「やれやれ、春彦がそう言うのなら譲歩するよ。でもね、もし春彦に何かあれば俺はかぐやさんのことを許さないからね」
「わかってるわ」
「せっかくの大学生活だ。三人で楽しもうよ」
夏樹はそう言って笑顔でこの話を締めくくった。
昼食を済ませ、食堂から出たところでかぐやがこっそり俺に言った。
「彦、良い友達を持ったわね」
「そうだな」
夏樹はかぐやを村に連れて帰るものだと思っていたが、あいつの話を聞いてわかったことがある。
十一年以上前に、俺は夏樹の家族を救った。俺が初めて人の願いを叶えた時だ。
恐らく、その時から俺に対して友情以上に強い感情を抱いているのではないかと思った。
そうでなければ、俺のことを調べてわざわざ会いに来た理由が見つからない。
あの時から……
「どうしてだ?」
「かぐやさんの血だよ。不老不死の力。かぐさんの血を飲めば、不老不死になる。もし、過って春彦がその血を浴びたら君も不死になるからね」
かぐやの不老不死の力は自分だけでなく、他人でさえもその力を受け継ぐことになる。不老不死の力は実在する。かぐやの血をなんらかの形で体内に取り込むことでその力を得ることができる。夏樹がこのことを知っているのは、俺がかぐやを助けたことで、彼女の存在が村中に知れ渡ってしまったのだった。
「俺はこの十一年間、かぐやの血を飲んだことがない。それは今後も変わりないだろう」
「本当にそう言い切れるかい?」
「何が言いたいんだ?」
「かぐやさん、不躾で申し訳ないけど、あなたは春彦のことが好きかい?」
「私は彦のことが誰よりも好きよ」
唐突な出来事に驚いた。かぐやは俺のことが好きなのか。夏樹との話し合いでそれを聞けるとは思っていなかった。嬉しいことには違いない。
堂々と言い切る、かぐやは凛としていた。
「春彦はかぐやさんのことが好きかい?」
「俺もかぐやのことが好きだ」
俺は今までかぐやを守ることを使命としてきた。だから、この十一年間で恋愛感情がはっきりと芽生えていたわけではない。今ならはっきりとわかる。かぐやを助けたあの日から俺はずっと好きだった。
「だとすると困るな。もし二人が、子供を授かる時に春彦は不死になるよ。それだけじゃない、二人が一緒にいることで何かしらの過ちがあるかもしれない」
不死になることで困ることがあるとでも言うのだろうか。俺にはわからない。
むしろ俺にとっては……。
「私たちの恋路を邪魔をするの?」
「そういうわけではないよ、かぐやさん、あなたは不死の辛さは誰よりもわかっているんじゃないかな?どんなに人を好きになっても相手は年を重ねて老いていく。それを目の当たりにしてるよね?」
「私は今まで、恋愛はしたことがあるわ。帝もそうよ。そのどれもがみな私の元から失ってしまったわ。でもね、夏樹さん、私は彦には不死にさせないと決めてるの」
「それはどうしてだい?」
「私は不死の力であなた達の村では忌み嫌われたわ。私の血は穢れてるとさえ言われてね。私の血を欲する人が数知れない。そのおかげで、村が滅ぼされかねないと言われたわ。彦には私と同じ道を歩ませないわ」
かぐやが軟禁以上に過酷な仕打ちを受けていた理由がわかった。今まで俺には何も話してこなかった。あの村はいわば保守的なのだ。それは仕方がないことで、しかし、かぐやの存在が良いか悪いかの問題ではないはずだ。俺にはかぐやをもっと自由に生きて欲しい。こうして大学に通うように。
「それはたとえ、春彦に危険が及ぶかもしれなくてもかい?」
「それは……」
かぐやの力は俺が思っている以上に計り知れないものだ。
俺に危害が及ぶ可能性は捨てきれない。
そうだとしたら、俺の中では一つの答えが出ていた。
「夏樹、俺には力がある。人の願いを叶える力がある。それはかぐやでも変わりない。かぐやが俺と共にいたいのなら、その願いは叶えられる。たとえ力を使わなくてもな」
かぐやと一緒に外の世界を歩きたい。それが俺の答えだった。
「彦……」
「やれやれ、春彦がそう言うのなら譲歩するよ。でもね、もし春彦に何かあれば俺はかぐやさんのことを許さないからね」
「わかってるわ」
「せっかくの大学生活だ。三人で楽しもうよ」
夏樹はそう言って笑顔でこの話を締めくくった。
昼食を済ませ、食堂から出たところでかぐやがこっそり俺に言った。
「彦、良い友達を持ったわね」
「そうだな」
夏樹はかぐやを村に連れて帰るものだと思っていたが、あいつの話を聞いてわかったことがある。
十一年以上前に、俺は夏樹の家族を救った。俺が初めて人の願いを叶えた時だ。
恐らく、その時から俺に対して友情以上に強い感情を抱いているのではないかと思った。
そうでなければ、俺のことを調べてわざわざ会いに来た理由が見つからない。
あの時から……