僕は愛した人の悪役
でも、世の中は染色体で人生を決められる。XとYという狭い世界で「男なんだから」とか「女なんだから」とか言われて、レールを走らされる。その時、普通とは違うと判断されれば、人と道が大きく逸れてみんなから「気持ち悪い」と死ぬまで言われなきゃならないんだ。

うちは「男は」とか「女は」っていう考えが大きい。だから、僕は性同一性障害のことを話せずにいた。本当は死にたいくらい辛いけど、「男なんだから」と親に言われるたびに、本当の性を隠すしかなくなる。

「男なんだから、新しい学校でも運動部に入るんだぞ」

「男の子なんだし、お弁当は大きい方がいいわよね?」

親に言われた言葉を思い出し、泣きたくなる。本当は女の子として生きたいのに……!

僕は俯いたまま新しい学校の門をくぐる。見知らぬ顔に大勢の視線が集まった。でも、前を向きたくない。男としての自分を見られるのが辛い。僕は走るように職員室のドアを開けた。
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