まつげにキスして
2nd scene
なぁ、
男の俺が言うのも釈然としないけどさ。
運命って言えば、
運命か?
必然って言えば、
必然なのか?
とにかく、
あの日。
―全てが始まった。
……………………
ヒュウゥ―…
ガチャンっ…
俺はその音で目を覚ました。
「やっべ、寝てた?!ボケッとしてたら…」
―もう夕方だった。
『…あぁ…綺麗…』
溜息を付きたくなるように美しい、明日世界が滅びるんだと言われても納得出来るぐらい、そう、それほど素晴らしい、秋の夕暮れが屋上に広がっていた。
柔らかく、かつ力強く赤に近いオレンジに輝く夕焼けを映し出した空に、ひとつ、屋上に伸びる影。
少し荒れた風に、少女の制服はバタバタとやや迷惑そうにはためき、輝かんばかりの太陽のオレンジ色にほだされたように、巻き上げられた漆黒の髪は、いつもにない柔らかな焦げ茶色に染まる。尚更、白い肌には安々と陽の色が染み渡る。
スラリとした体を光の中に映し出された少女の姿は、誰の瞳に映っても、その神々しい世界に退けを取らないぐらい美しかった。
そんな彼女を、彼は上から見ていた。
「…うわっ…超キレイ…」
俺は自然と声を漏らした。
しかし、当の本人はそのことには気付いていない。
「―ん?…あれは…久我みもり…?」
見間違えようがない。
それは毎日のように、自分の周りの男達が「彼女にしたい」だの、「その冷たい眼差しで見詰めて」だの「いっそその足で踏ん付けて」などと、ちょっとMなマニアに受け過ぎなんじゃないか?と思われる話題になる女。
そんな彼女に与えられた称号(あだ名?)が、クールビューティ。
確かに夕日に浮かぶような彼女は、そんな言葉がしっくり似合う女だった。