まつげにキスして
「…あた…しの…マフラー…。」

―うっ!!

「買ったばっか…で…お気に入り…なのに…」

―ヤバイ!!さすがにこんなつもりでは…。

しかしなんて言い訳をして良いかも解らず、心の中で焦りだけが大きくなっていて、彼女を抱きしめていることをすっかり忘れて腕に力を込めてしまったその時。

「んっ…てゆうか…誰…?苦し…離してよ…」

『うわっ!!!!ごめん!!!』

柔らかな彼女の胸の下辺りに回した腕の感触が全身を駆け巡るには数瞬。
咄嗟にしてしまったとはいえ、自分の迂闊さとその体勢に恥ずかしさを感じ、急いで腕を外し、ここは素直に謝るしかないと腹を決め、手を顔の前で合わせ慌てて謝罪の言葉を素早く紡ぐ。

『ごめん、本っ当にごめん!!!そんなつもりじゃなかったんだ!!なんか言うこと聞くから、新しいそれ買うから!!許して!!』

彼女がくるりと後ろの俺を振り返る。
制服の擦れる音に、俺は目をつぶりながら彼女の反応を待つ。

『顔、上げてよ。誰かわかんない。』

そう言われれば、恐る恐る俺は顔を上げるしかない。

これでも少しでも真摯な気持ちが伝わればと、上目遣いでこちらを伺ってくる彼女の瞳に、ゆっくりと自分の瞳を合わせた。
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