まつげにキスして
『…本当にわりぃ。俺…渡瀬太一。』

彼女は一瞬、驚いたような顔をしてから、直ぐさまぐっと顔の筋肉を引き締め、食い入るように、じっと俺の瞳を見詰めてくる。

…切実に謝ろうと思う相手の、真っ黒い穏やかな夜のような瞳に、不覚にもドキッとしてしまう。

黒の瞳を縁取った、付け睫毛なのではないかと疑いたくなるぐらいのふさふさとした睫毛。

陶器のように白い、艶のある肌。

朱い頬。

紅い唇。

…でも結局、その綺麗な瞳から一番、目を反らせない。

そんな太一の気持ちを知ってか知らずか、彼女は一向に瞳を反らしてくれずに、ただ、ただ、ジーっと見入る。













―……………。
アレ?
無反応?
新手のイジメ?

俺が何も言わず、少々痛痒い視線を受けていると、久我みもりがようやく口を開いた。

「…言ったよね…?」

『…え?』

「言ったよね?」

『…何を?』

「言うこと…聞いてくれるって、言ったよね?」
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