さながらサテライト
きみの父親は凶悪な殺人犯だった。
私の両親は、きみの父親に殺された。
きみと出会ったあの日。学校から家に帰ると父と母は血を流して死んでいて、黒いフードを被った男は血眼で私を殺そうとした。
その男がきみの父親だと知ったのは、その日の夜のことだった。
果物ナイフが顔を掠め、額から血が流れるのを感じた。悲鳴をあげることも出来ず、裸足のまま家を出て、震える足で必死に逃げた。
───額から血を流した女の子が走っている、何かがあったのかもしれない、警察をよべ、救急車を、
私を取り巻く世界が騒いでいるのを聞きながら、私はただひたすら走った。血に塗れた家には帰れない。あの男が追いかけてくるかもしれない。見つかったらすぐに私も殺される。
行く宛てもなく、私は廃れた公園に逃げ込んだ。ベンチに座り、血だらけの額を隠すように蹲る。
「───ねえ、血が出てるよ」
きみは、そんな私にハンカチを差し出した。どうしたの も、何があったの も何も聞いてこなかった。ただ「痛い?染みる?」と私の痛覚を気にしていて、ハンカチで優しく額の血を拭ってくれた。
きみは、先程見た男と顔の作りがよく似ていた。綺麗な黒い瞳が私を捉えている。先刻 私を殺そうとしていた瞳とよく似ているのに、彼の瞳に殺意はなかった。
私はきみに連れられて、きみの住むこのマンションに行った。
「きみの両親を殺したのが俺の父親だって言ったら、きみは俺を殺す?」
気が動転していたのかもしれない。きみの纏う優しいオーラに惚れていたのかもしれない。
きみは両親を殺した殺人鬼の子供なのに、私はきみを恨むことも嫌うことも出来なかった。
「殺したくなったらいつでも殺して」
そうしてきみと私の世界が出来上がった。
思い返さなくたってわかる。
最初からきみも私もまともじゃなかった。