きみじゃなくてもいい
「おいで、雨衣」
目元を押さえていた手が強引に引き離されて、また同じように、変わらず私の手を引いて。
知らないふりをする。涙の理由。訊かれたら困るけど、訊かれないと拍子抜けする心理、厄介で女々しくて苦々しい。
それに何だか小賢しい。
今の私は何も持たない子どもで、負けそうなゲームを涙でリセットする子どもで。
は、と吐き出した溜め息を最後にしようと、袖で目元を拭った。あつい。
「なんで戻ってきたの、光輝」
「雨衣が泣くから」
なんて、思ってないくせに。私がどんなに泣いたって、そんな優しさの欠片も落としてくれなかったくせに。
らしくないね。お互いに。
きみが私を女の子扱いするなんて、先を引いて戻ってきてくれるなんて。
らしくないよ。きっとどこかで、絡まったんだよ善悪。