きみじゃなくてもいい
思わずぎゅっと抓ってしまった指先を離して、顔を上げる。やってしまった。熱がサッと引いていく感覚。
目が合うと、光輝は、
「うそ」
無表情でそう言って、私の半端に開いた口を、自分の唇で塞き止めた。二度ほど触れて離れて、慌てて目を瞑ると、瞼にキスが落ちてくる。
すこし目を開けて、思わず指先を這わせた。ちいさな傷が、歪む。
「これ、ごめんね」
血。私がつけた傷。固まってしまった。
「俺はおまえにもっと酷いことしてんのに」
柔い風が吹く前に、口端だけをつりあげてわらう光輝が、私を見ていない。私を通して “ 私 ” を。
「…痛かったよ。光輝、私には全然やさしくないし、痛くて悲しくて」
「うん、」
「息、くるしくて、あつくて、呼んでもやめてくれなかった、から」