きみじゃなくてもいい
砂の城を簡単に崩していく波のような、快楽。台無しにする瞬間に価値見出して笑み湛えて。そういう残酷も冷徹も備えて。
だから忘れられない。嗜虐心に満ちていると睨みあげたその表情が、私のぜんぶを取り上げたあの瞬間だけ、自分が傷つけられたように歪められていた。
「吐きそうなほどいい子ちゃんだね、雨衣」
ああ今でさえも。硝子玉を鑢で傷つけた、瞳。
「だから俺なんかの為におまえは無駄に泣いてる」
冷たい露が囲うだけで、どうしても変わらないこの人は、私を手を拒否しない。ただ勝手に頬を触れられて、見つめ返す。
変わらない。何も変わらない温度をしていた。何も変わらない筈だったけど、年が経つと薄れて濃くなる隙間が隔ててた。
「無駄じゃないよ、私はもうずっと……、ずっとずっと、」
光輝が。
「雨衣」
つよく、抱きしめる。