きみじゃなくてもいい




さっきより鳴ってしかたない心臓と、熱い頭の奥で、傷ついてる光輝を持てる力ぜんぶで抱きしめた。

肩が温かい。温かいのに、つめたい。



「おまえが泣くところなんて、見たくねえ、し……、守ってあげたかった、俺が」



守りたかった、私も。
光輝の柔らかいやさしさ。



「私たち、“ かぞく ” なのに、何も足りなかったね」



ことば、温度、距離、こころ。

足りなかった。不足が蔓延していた空間で、個々に何かを信じてるだけ。書類上でも便宜上でも、見える良いところだけ繕ってる。

真夜中の感傷と後悔と情愛で、隙間がゼロになるはずがない。わかりきった事柄。でも今の今まで解りあった姿で見ていた。

ちかくにいるのは、自分だと。不足の上に誤解を詰んで、満足そうに笑む。ずっと谷は深かったのに。



「当たり前だろ」








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