きみじゃなくてもいい
谷から身を乗り出す。勇気。
「 “ これ ” はおまえと全然ちがう」
これ、と指したのは、私が触れた赤だ。かぞくの証拠。繋がりを露わにする液体。
「わかってても、かぞくでいたかった」
「ふふ、俺はいや」
「なんで? 誕生日だって同じなのに」
はじめてきみと会った日のこと、すごく曖昧に歪んでいる。だけど一緒に育った間は同じ温度でいた。私ときみはきょうだい。
流れる液体はひとつも同じじゃない、きょうだい。
色だけが同じでいる、きょうだい。
抱きしめる。髪に触れる。キスをする。涙を染む。そのぜんぶがきょうだいに当てはまらなくても、一緒でいたかった。
きみがいい。きみの背を追うのはいや。きみがいい。
「雨衣じゃなくても良かったんだよ。かぞくになったやつが」
光輝がわらう気配がする。胸がぎゅって掴まれたくらいに苦しい。苦しさを逃したくて抱きしめる力を緩めた。