きみじゃなくてもいい
「行くよ」
皮肉を込めた笑みをしていたくせに、繋いだ手は優しく引かれて。今度はゆっくり歩くから、返事をするだけで何も言わない。
言わなくてもいい。
冷えた空気が吹き抜けないように手を握り返した。
視線を落として、さっきまで私の全部を取り上げていた彼の手に、自分の爪痕をつける。
「これからどこに行くの?」
「海」
「海?」
「うん。心中でもしようと思って」
心中。
「そっかぁ」
きみが言うなら、そうなんだろう。理由は後付けで、私は笑って、たのしみだねと言った。