きみじゃなくてもいい
「じゃあ行くよ。……よーっ、い」
どん。
で手を離して、踏み出したら、世界がきらめいた気がした。
風が頬に触れて痛い。押されたように縺れそう。閃き続けるスカートが太腿にさらりと感触を残す。はぁ、と漏らした呼吸に、光輝が隣並んだ。
簡単に追い抜かれてしまって、その背を追うことになる。ぜったい馴染まない白いシャツ。目が眩む。いつもいつも追ってる、私は。
いつも、いつからか、私は。
息が苦しいのに唇を噛んだ。言いようがなかった。振り返るものがないだけ、前を見続けて、ずっと。
よく訪れる店の前を通る。学校帰りに寄る本屋の前を通る。家と家の細い隙間道。角を曲がる。緩やかな坂。
見慣れたものばかりだ。見慣れた朝の温かい温度ばかりが詰まる景色、それは今、深い藍が落ちている。
「は、あっ」
ことばを詰めて、飲み込んだ。ゲーム。私が、光輝に提示した、たったひとつのはじめての。