きみじゃなくてもいい




光輝は決して振り返らない。それでいい。私が光輝だったら絶対に振り返らないから。

街灯が横目をすり抜けていく。夜のぜんぶが、私を置いていく。あの白いシャツは風に弛んで。不意に蹌踉ける一歩に力を込めて、体勢を直して。

止まりそうな足。叱咤する負けず嫌い。強がっていても、今夜はどうも思い通りにいかない。

運動が不足した体が憎い。だけど澄んだ景色のきらめきが心地良い。視界のまんなかを進んでいく光輝の背中。

ああ駄目だ。

唇を解く。眦が冷たく濡れていた。



「っ、ふ、」



走って呼吸が苦しいのか、忙しい感情が苦しいのか、わからないくらいに胸を押さえる。嗚咽が滲む。

それでも澄んできれいな景色のまんなかで、きみの背が走り続けて。







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