きみじゃなくてもいい
俯く傍らで、きみが切り捨てた髪が揺れる。長さも曖昧。真っ直ぐで、斜め。あんなに大切に伸ばした女の命に、簡単にハサミを通した光輝を。
まだきらいになれない私の、いちばん柔らかい、こころ。散々踏みつけても勝手に芽吹く。
『いつまで俺を、美化してんの』
私を傷つけるくせに、傷ついた顔であまく微笑んだ、あの瞬間だけ。悔しくなって手を伸ばして、その分遠のく気がしたから。
「……ねえ、」
暗い暗い手の内に、記憶を流していると、微かに息が詰まった色を沈めた声が、影を落として私を見た。気がした。
「なんで泣くの」
「……何、でもない」
強がり、じゃなくて。これは本当のことだ。ふうん、と興味無さげな相槌が心地よかった。