地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……

土曜の18時。



私は、冬野さんのお店に出勤した。



冬野さんは午前中に出勤して、お店の掃除をして、外のプランターと中の観葉植物の手入れをしたと言う。



「明日は定休日で、甥っ子と水族館に行く約束なんだ」



「良いですね。甥っ子さんはおいくつですか?」



「今年、小学校入ったばかりでやんちゃなんだ。去年お兄ちゃんになったばっかなんだけど、下の子に嫉妬しちゃってお手上げなんだって」



それ分かるわ。



私が妹とそうだった。



ただでさえ初めての学校生活で心細いのに、両親の感心根こそぎ持っていかれて、本当愛情の追いはぎにあった様なもんだった。





「分かります。私もそうでしたから」



「えっ、分かるの?」



「分かりますよ。私が妹と5つ違うんですから、今まで自分至上主義だった両親に手の平返されて」




そんなもんかな?

俺は末っ子だから、分からない。

そう言って冬野さんは、五つ上と三つ上に姉がいる事を話してくれた。



二人の姉は結婚していて、上のお姉さんに二人、下のお姉さんに一人子供が居るのだと言う。



話しながら準備をして居るとあっという間に開店時刻になって、最初のお客さんが入ってきた。



珍しく清楚な黒髪の女の子だった。



「ご注文は?」



場に似合わない上に、何かどきまぎしていて、やたらきょろきょろしながら、ギクシャク動いている。



ブリキの人形だったら油をさしているところだ。



私の声かけ無視しているのか聞こえないのか。




わたしを見上げる金魚みたいに口をパクパクし始めて、大分してから声が出てきた。




「…っ…ぁ…トマトの、あの、アルコールの入ってない。あの…」



「ヴァージンメアリですね。フードは何されますか?」




「……っ…。えっと、あの、その」



「本日は生ハムの薔薇ポテ(ポテトサラダ)がおすすめです」





取り敢えず笑顔で、ひきつる女の子に微笑みかけてみた。



女の子は、私のおすすめを頼んだ。



しきりに周りをきょろきょろしながら、提供したお酒と飲み物を時間をかけてゆっくり堪能して店を出て行った。



ちょっと、不審者認定のお客様だった。
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