地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……
私が目を覚ますと朝の9時だった。
ひろき君はまだ寝ていて、私は一人リビングへ抜け出すと、自室にいるはずの冬野さんがリビングのソファに腰かけ、ブランケットにくるまって仮眠を取っていた。
もう良い時間だから、このまま帰ってしまわないとあまり長居をして二人を困らせてはいけない。
そう思って、私は自分のバッグを持ってそっと玄関に向かおうとしたが、冬野さんがくるまるブランケットが肩から落ちていたので、なおしてあげようと傍によると、瞬間冬野さんが目を開けた。
「石ちゃん……」
冬野さんはそう呟いて、私の方に顔を近づけて、私の頬に頬を寄せた。
「へ?」
瞬間肩を抱きすくめられて、私は冬野さんの胸に墜落した。
冬野さんの匂いは、バニラっぽい薔薇の香りだな。
そんな事を思いながら、寝ぼけているんだ、これは事故だ。
そう自分に言い聞かせながら両手で態勢を立て直し、冬野さんから体を離そうと試みた。
でも、両手でがっちりホールドされていた私は冬野さんから逃れる事が出来ない。
やばい、私の理性が残り少ないため、あわよくばこのまま永遠に抱きしめられていたい。
げへへへ、みたいな不埒な祈りを捧げて、息を殺して冬野さんが間違いに気づくまでこの状況に甘えてしまいそうだった。
本当に良い匂い。
この匂い、香水として世に出ないかな。
こんな香水あるなら、一生つけてたい。
頭がくらくらする。
冬野さんの様なイケメンにハグされるなんて、本当、一生涯最初で最後の経験になるだろう。
ぐぅ!!
あ、これはいかん。
私のお腹の虫よ。
よく考えたら、昨夜は忙しくて賄いも食べてなかったんだった。
「ごめん、そういえば、何も食べてないよね」
急に抱きしめられる力が和らぎ、いくばくか身体を起こした先に、目をぱっちり開けて真顔の冬野さんが視界に鎮座して、私はうろたえた。
「こ、これは、その」
「朝ご飯、作るから。ちょっと待ってて」
あぁ、嘘。
私、なんて色気のない。
冬野さんにお腹の音を聞かれるなんて。
冬野さんは何事もなかったかの様に立ち上がり、キッチンへ向かう。
「目玉焼きとオムレツどっちが良い? 今日はパンしかないけど。石ちゃんは朝、ご飯派、パン派?」
「そんな朝食までごちそうになるのは」
「朝ご飯まで居るって約束でしょ? 俺の作る料理は嫌い?」
「いえ、喜んで」
「で、どっち?」
「日曜はパン派です」
私が観念してそう答えると、冬野さんは満足そうに『それは良かった』と言って、いそいそと朝食づくりに励みだした。