地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……
「ひろき、そろそろ帰るよ」
「う~ん。やだ」

冬野さんと寝ているひろき君を起こそうとしたが、グロッキーなひろき君を背負って車まで行き、私たちは帰途についた。
帰り道、私の家よりも手前にあるひろき君の家に向かって、私と冬野さんはひろき君の家を後にした。
私は帰りに売店で買ったイルカの人形が青い液体の中で泳ぐアクアリウムの置物を、誕生日プレゼントとしてひろき君にあげた。

ひろき君はそれを見てすごく気に入ってくれたんだけど、冬野さんがとっても申し訳なさそうだった。
もしかすると、嫌だったかも知れないと胸にしこりが残ってしまった。
でも、車に乗り込んで、というか後部座席に乗ろうと思ったのに、助手席のドアを開けて『乗って』と言われるので冬野さんの隣に座ってしまったのだ、車を走らせ始めてすぐ冬野さんは私に、『ありがとう』と言ってくれた。

良かった。セーフだったかな?と思っていたら。
信号待ちで停まっていると、冬野さんが私の買ったアクアリウムのチンアナゴバージョンをくれた。

「え、チンアナゴバージョン!!」
「気づかなかった? イルカの傍に置いてあったよ」
「気づきませんでした。ひろき君。チンアナゴの方が良かったですかね?」
「いや、逆にね。ひろきはチンアナゴの方は持ってるから」

一足先にAQUAPALACEのリニュアル初日に、冬野さんのご両親が、初孫のひろき君にちんあなごのそれをお土産にあげたのだと聞いて私はほっと胸をなでおろした。
安心して冬野さんから貰ったちんあなごのアクアリウムを受け取る事が出来るのだが。

「ごめんなさい。私、冬野さんにはプレゼントないんです」
「気にしなくて良いよ。気に入って貰えて良かった」

幸せだな。
まるで、冬野さんの彼女になれたみたいな一時を過ごす事が出来て、私史上最高の一時だ。
家に送り届けて貰うまで、私は冬野さんと至高の一時を味わった。

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