地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……

冬野さんのお店クラウンにやって来たバイト応募の女の子は、見た目通りの二十歳の大学生だった。



最近まで勤めていたコンビニが業務縮小で廃店となり、新しいバイト先を探していた矢先、最寄り駅近くの子のお店の求人を見て応募を決めたという事で、冬野さんも実家通いで、言葉遣いもきちんとしている彼女を気に入り、即採用となり、火曜日から即働き始める事となった。




「初めまして、センバと言います。よろしくお願いします。石崎センパイ」



「初めまして、あのセンパイは恥ずかしいかな」




マキさんとうまく行くかな。



そんな不安を抱えながらも、私はお店の仕事を一通り彼女に手ほどきした。



冬野さんのお店で働き始めてまだ4日目なのだが、喫茶店でのアルバイト経験をフル動員して、彼女がマキさんに負けない様、仕事が出来る様、頑張ってみた。




冬野さんとは、濃密だった週末の出来事が嘘の様に、ただ働いて帰るだけの普通の毎日を過ごして、あっという間に臨時バイト最終日の木曜の夜となった。

新人のセンバちゃんとは、SMSで繋がって、友達の様に仲良くなったのだが、冬野さんとはマスターとスタッフ。元同僚を絵に描いた様な関わりだけで、今日でお別れだった。




「石ちゃん、本当にありがとう。良かったら、てんちゃん連れて飲みに来て。ちゃんとごちそうするから」



「ありがとうございます。ぜひ」



冬野さんが帰り際、改まってそう言って来た時、私は心の中で叫んでいた





【面倒臭い!! ってか、絶対無理!絶対いけない。マキさんだけでも厄介なのに、妹連れてマキさんの憑く魔の巣窟に行くなんて絶対(m´・ω・`)m ゴメン…だわさ】





「じゃ、失礼します」

「うん、気を付けて。ちゃんと電車で帰るんだよ」

「分かってますって」

「石崎さん、短い間でしたけど、丁寧に優しく教えていただいて、本当にありがとうございます。絶対、お店に遊びに来て下さい。私、石崎さんの妹さんにお会いしてみたいです」

「あ、ありがとう。うん」




午後22時。



私は冬野さんのお店を後にした。





そして、それを最後に私はそれから二度と冬野さんと会う事はなかった。





と、物語を締めくくるつもりでお別れしたのだが、私の受難の日々はまだ序盤の序の字も迎え終わっていなかったのである。

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