地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……
冬野さんのお店で臨時バイトを終えて週を開けて月曜の夜。
私は会社の飲み会で、行きつけのお酒を飲んで、たらふくご飯を食べ、2次会の前に姿を消そうとした矢先、ちなと言う同僚に後を尾けられていた。
「石崎さん、どこに行くんですか?」
「ちなは知ってるでしょ? いつも同じとこ行くんだから」
私がそう言って不思議そうに首をかしげると、彼はえくぼが出来るほど屈託なくニッコリ笑って、つやつやの黒髪をクルンクルンさせた長めの前髪を揺らして私の傍に来た。
そして、あろう事か私の肩を両手でつかんだ。
2コ下の後輩社員で、冬野さんよりリンゴ一個分背が低くて、冬野さんがお兄さんキャラなら、彼は弟キャラ。
でも、もちろん光属性でパリピでリア充。
スーツの着こなし、立ち居振る舞いも、完璧。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はユリの花。という言葉があるが、本当に冬野さんやちなは。
目視で眩暈、触れなば動悸、壁ドンされれば石化しそうである。
「今日は、何にするんですか?」
ちなはそう言って肩をがっちり掴んで私を前に押し出す。
「ストロベリーミルクティー。ちなは?」
「僕は、アイスラベンダーティ」
私の飲みの二次会は、夜遅くまでやっているホットの紅茶はポットで出してくれるフェアリーと言う喫茶店だった。
それを、会社の誰にも知られない様に、今までこっそり通って来たのに、唯一ばれてしまったのが、このちなだった。
「石崎さん、冬野さんのお店行かなくて良いんですか?」
ちなが不意にそう尋ねてきて、私は冬野さんのところの臨時バイトは先週までだったから、行く訳ないじゃんと思った。
「バイトは先週までだよ」
「え、バイト? ……。………え、石崎さん。先週冬野さん、石崎さんに何しにきたんですか?」
「は?」
「冬野さん、石崎さんをわざわざ呼びだしてませんでした?」
「あぁ、1万円の事があって」
「え、あ、う~ん。単刀直入に聞きますけど、石崎さん、冬野さんと付き合ってますか?」
ちな、頭おかしいんじゃない?
一瞬、脊椎反射で言葉に出そうになったが必死に堪える。
「そんな訳ないでしょ? 私なんかが冬野さんと付き合える訳ないでしょ。 関係ないから」
私の言葉にちなは、なぜか表情を強張らせて、肩を掴む手を強めて言った。
「それって、強がりですか? それとも、諦めですか?」
その問いかけこそ、何の事なんだろう。
私はちなに、今まで冬野さんの事、どんな風に話しをしたっけ?
まるで、私が冬野さんにずっと片想いしていた事を知っている様な口ぶりではないか。