地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……
夜23時。
森の隠れ家の様な古民家風のカフェのテーブル席で、ちなと差し向いに座って頼んだのは、アフタヌーンティーセットだった。
二人分がワンセットになって三段のスタンド皿、下の段にはたまごのサンドウィッチ。中段にはメープルウォールナッツのスコーン。上の段には、洋ナシのタルト、ココットに入ったカットフルーツとカシスのソルベとクレームブリュレ。
「わーい、今日のソルベはカシスだ」
「この前のガトーショコラも美味しかったですよね」
「あれ、中からチョコレート出て来たから、ファンダンショコラだったんだよ」
私は、ポットからミルクティーをカップに注いで、まずはストロベリーミルクティーの香りを愉しんだ。
ちなは早速サンドウィッチを頬張って、恍惚の笑みを浮かべている。
「ちなさっきちゃんと食べたの」
「僕あんまりあぁ言う居酒屋好きじゃないんですよね。味付け濃いのとか、脂ぎった料理はちょっと……」
「ふ~ん。私結構たべちゃったから、サンドウィッチ入るなら、食べて欲しいかも」
「喜んで。あ、じゃぁスコーンも結構重いから食べられますか?」
「それはご心配なく、甘いものは別腹ですから」
会社の飲み会とは違う、静かで穏やかな料理と飲み物。
雰囲気と会話。
飲み会自体はタダならあまり断らないがお金を出してまで好き好んで行ったりしないし、誰とも好き好んで一緒に騒いだりしたいと思わない。
でも、このお店でお茶をするのと、そこにちながいる事は、私は決して嫌いではない。
「それにしても、 僕、今日から一人だと思ってました」
「何の事?」
「石崎さん、冬野さんと付き合うんだと思って、飲みの終わりにこの店に来なくなるんだと思ってたって事ですよ」
「え、この前、冬野さんが私を呼び出したの告白だと思ったの?」
「そうですけど、違ったんですね」
「あったり前でしょ。大体、もしそうだったら、私、今頃マキさんに海に沈められてるって」
「そんな訳ないじゃないですか。マキさんだってさすがに法を犯す事までしてきませんよ」
「どうだか?」
って言うか、さらっと現実的にとらえないでヨ。
やりそうってところを完全否定してほしかったのに。
「マキさん、ガチで冬野さんの事好きですよね」
「うん。会社に居た頃からあからさまに冬野さん狙いだったからね。でも、まさかずっと3年も狙ってるなんてね」
冬野さんとマキさんが付き合ってないのはわかるけど、狙った獲物は逃さないと逃れられないと思っていたからこそ、狙い続ければ、必ずモノにすると思っていたからある意味意外でしかないのだが、どうやら、よっぽど冬野さんはマキさんに気がないんだなと思っている。
「マキさん、さすがに諦めて他の人にいけば良いのにね」
「好きになってくれないからこそ、諦められないってあるんじゃないですか? でも、さすがに冬野さんとマキさんがくっつく事はないと思いますけど」
「そうだといいけど、最後は根負けしたりしてね」
「それは絶対ないですよ」
「えっ、なんで?」
「僕、何となく、冬野さんが好きな人に心当たりあるんで」
「え、誰?」
「教えません。かなり鈍い人で、その人、この調子じゃ永遠に冬野さんの気持ちに気づかないんじゃないかって気はしてるんですけどね」
「へぇ、羨ましい人が居るもんだ」
誰だろそれ。
私は、首をかしげつつ、フェアリーの喫茶店の紅茶を満喫すべく、追加でアールグレイのアイスティーを注文した。