地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので……

喫茶店を出て時計を見ると日付が変わろうとしていた。




「今日も僕の家に泊まって行きます。石崎さん明日有給でしょ?」



「うん。でも、ちなは明日いつも通り出勤だよね」



「大丈夫ですよ。朝、きちんと起きて一緒に家を出てくれるなら、別に構いませんから」



「じゃぁ、お言葉に甘えて」



ちなは同性と一緒にいる感覚で居られるし、こんなイケメンと間違いなんて絶対起こらないという絶対的な安心感もあって、最初に飲みの帰りに喫茶店に行く様になってから、帰りはちなの一人暮らしのマンションに泊まって帰るのがデフォになっている。



一緒に帰って、家で飲みなおして朝起きたら隣に寝ていても、女の子の家に泊まりに行ったみたいに普通にしていられる仲だ。



私はいつものつもりで、ちなの家に行って、ちなの家にあるショットグラスでテキーラを煽ってライムをかじって、楽しく談笑して過ごしていた。



ちなのリビングでソファーの前に座り込み、不意にちなが私に向かってスマホを向けて穏やかに声をかけた時、いつもと何かが違ってしまった。



「石崎さん。そろそろ、本気で向き合いませんか?」



「え、向き合うって何とだよ」



パシャっとなるシャッター音。



え、今写真撮った?



ちなはスマホを操作し続けて何をしているんだ?



「自分の感情を都合よく逃避して、周りの気持ちに目を向けない。いつも自分を後まわしで、うまくやりたいことだけ、守りたいものだけ、手を尽くして、仕事じゃそれで救われている人たくさん居ると思いますよ。だから、あなたの部署の人も、上司も、冬野さんも、あなたを高く評価している。でも、そろそろ自分の問題に目を向けた方が良い。というか、目を向けて下さい」



「私の問題?」



「そうですよ。さすがに、もう、ケリを付けたと思ったのに、あなたまた逃げたんでしょう?」



「私が逃げた?」



「そうですよ。石崎さん。冬野さんが好きなくせに、折角再会して、何の一歩も踏み出さず、マキさんの陰に怖気づいて、尻尾を巻いて逃げたんでしょう?」



「なんでちなが、私が冬野さんが好きって知ってるの?」



「初めて、うちに来た時、酔っ払って、酒が足らない、チョコが食べたいって言って、テキーラ片手に、僕が買ってたキスチョコ全部食べようとして、取り上げた僕を押し倒してチョコレートを奪った挙句、最後の一個だけは僕が食べようともう口に入れちゃったのに僕の唇を奪ってまでディープキスで取り返して来たんですよ」



何その酒乱。



それって私の事。



え、覚えてないよ。



たしかにちなのうちにあるキスチョコはちなの家に行くときの大の楽しみで、今もテーブルの上にてんこ盛りで置いてあるけど。



ちなの口の中の分まで取り返すほど、見境なくチョコレート食べたなんて、記憶にないけど、気持ちはわかる。



キスチョコは、子供のころから大の好物だったから。



「いや、もしそうなら(m´・ω・`)m ゴメン…。でもそれと、ちなが冬野さん好きって関係なくない?」



「ありますよ。僕言いましたよね。僕は、そのあと、貴方に好きだから僕じゃダメか。僕はあなたが好きだって。でも、あなたは断ったんです。これからも、ずっと冬野さんの事好きでいるから、ダメだって。逃した魚が大きくても、口には入りきらない物は食べられないから仕方ないけど、自分それが食べたいんだって。もう少し、綺麗な言い方出来ないんですか。何食欲風に冬野さんへの気持ちを僕に語ってるんですか?」



「え、だって、食べたくても絵に描いた餅は永遠に食べられないじゃない」

「恋心を食欲に変換するのからやめましょうか。ずっと、今まで言おう言おうと思ってましたけど、やっぱり記憶がなかったんですね」

「え、うん。ちなが私が冬野さんが好きだって知ってたなんて思わなかった」

「論点、今そこじゃないです」

「え、じゃぁ何、論点?」

「僕が好きなのが、石崎さんだってところが、今の僕の論点です。最初の論点はたしかにそうでしたが、今の論点は『ほかの男が好きな癖にこのこ毎回僕のところに友達顔して泊まって行くあなたの神経について』です」

「そっか、ごめん。あり得ないから到底記憶にあっても信じられないし、信じられない。何、ちな悪酔いしてない」



うろたえながらも、絶対に何かの間違いだと諭す様にそういう私に、真顔でちなは私に言った。



「僕は、これ以上ないって程に素面です。正真正銘、一次会でも、フェアリーでも、うちに帰ってからも一滴だって飲んでませんから。僕は石崎さんみたいにザルじゃないんですから」

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