愛で壊れる世界なら、
「あなた、強い強い望みを抱いているのね」
地上でたまたま出会った女の、懐に隠された不思議な気配。意識を集中し、それが例の代物ではないかと察せられた。
思わず息を飲んだ。噂が真実ならば――、いや、そんなことがあるはずなど。
どうせ紛い物に違いなく、仮に何らかの効果効能があるとしても、それこそ回収して女神へ報告すべき案件で、
「ほぅら。よくご覧になって」
分かっているのに、取り出された何色ともつかない小石を目の前に差し出され、揺れた。
心臓が妙に早鐘を打ち、それは応えるように色を変えて意識を奪う。ゆらり、ゆらり、その中に炎でも閉じ込めてあるように。
「これが欲しいのね。これがあれば、あなたの望みは叶う」
望みなら叶った。ただひとつ、欲しかったもの。
願い続けて手に入れた、恋人という立場。
「ねぇ、綺麗でしょう?」
幸せだった。とても、幸せだった。
隣で微笑む彼女と過ごす時間は、何よりも幸せだった。
「……ミアシェル……」
愛している。誰よりも、何よりも、――――君さえいれば。
石の中で炎が煌めく。赤く、青く、白くて黒く、徐々に煌めきを増して揺れ動く。
ひくりと指先が、腕が、引き寄せられていくのが分かった。分かっていながら抗う力も湧かず、自然と出した手のひらに、ころりと転がる小石を握り締めた。
楽園に在るべき光を失うと、理解していたのに。