愛で壊れる世界なら、



「あなた、強い強い望みを抱いているのね」


 地上でたまたま出会った女の、懐に隠された不思議な気配。意識を集中し、それが例の代物ではないかと察せられた。
 思わず息を飲んだ。噂が真実ならば――、いや、そんなことがあるはずなど。
 どうせ紛い物に違いなく、仮に何らかの効果効能があるとしても、それこそ回収して女神へ報告すべき案件で、


「ほぅら。よくご覧になって」


 分かっているのに、取り出された何色ともつかない小石を目の前に差し出され、揺れた。
 心臓が妙に早鐘を打ち、それは応えるように色を変えて意識を奪う。ゆらり、ゆらり、その中に炎でも閉じ込めてあるように。


「これが欲しいのね。これがあれば、あなたの望みは叶う」


 望みなら叶った。ただひとつ、欲しかったもの。
 願い続けて手に入れた、恋人という立場。


「ねぇ、綺麗でしょう?」


 幸せだった。とても、幸せだった。
 隣で微笑む彼女と過ごす時間は、何よりも幸せだった。


「……ミアシェル……」


 愛している。誰よりも、何よりも、――――君さえいれば。
 石の中で炎が煌めく。赤く、青く、白くて黒く、徐々に煌めきを増して揺れ動く。
 ひくりと指先が、腕が、引き寄せられていくのが分かった。分かっていながら抗う力も湧かず、自然と出した手のひらに、ころりと転がる小石を握り締めた。


 楽園に在るべき光を失うと、理解していたのに。


< 12 / 64 >

この作品をシェア

pagetop