愛で壊れる世界なら、
「天使ヴァリオル。異界の力を手にしようとした罪により、あなたから翼を奪い、堕天した者、堕天使とします」
処罰は速やかに行われた。
楽園へと帰還し幾日も経たず呼び出された神殿で告げられた罪状、そして執行人の手により振り上げられたのは、平和なフェンシィオに似つかわしくない大鎌。
刎ねられると瞬時に覚悟した首は落ちず、焼けるような痛みを覚えたのは背中だった。翼が力尽くで奪われたことを、感覚ではもちろん、鈍い音を立てて落ちたそれが赤黒い断面を見せていることで知る。
明確な痛みのためか意外と恐慌状態には陥らず、そこでようやく女神の告げた言葉が反芻された。
堕天使と、言ったのか。それは人間による空想上の存在ではなかったのか。天使であり天使でなく、悪魔に与し悪魔でない、虚ろなものとされていると記憶している。
彼女とは異なる生き物となり、彼女のいない世界で生きろと、そう言うのか。
「……うそ……ヴァル、怪我……血が…………」
か細い声に振り向けば、恋人が震えながら立っていた。突然の出来事に心配して追いかけて来てくれたのだろう。
可愛いミアシェル。――君を愛していた。望むものはただ、君の心、君だけだったのに。
「堕天使ヴァリオル、ここフェンシィオより即刻立ち去るがいい」
傷つけたかったわけではない。身勝手にも、泣かないで欲しいと願う。それでも、失うしかない自分という存在に、涙して、ボロボロになって、傷ついてくれることに喜びが芽生えて、
「ごめん、ミアシェル」
もう戻れないことを自覚した。
大切な人に傷を作って嬉しいだなどと、確かに天使ではない。翼を失って性質が変容したのか、あれを得たいと考えてしまった時に既にそうなってしまっていたのか、今となっては分からない。
崖から落ちゆくヴァリオルの手を必死に掴んでいた華奢な手を、そっと離す。絶望に染まった瞳から、遠ざかる自分の姿をそこに見て、笑ってしまえるほどに、泣けてきた。
永遠に、いつまでも、君に愛されていたいとそれだけを願っていたのに。