愛で壊れる世界なら、


「……お前には、大した力は、ないのだろう」
「悪魔の世界の力を手にするわ。あなたが私のものになってくれるなら、望みを叶えてあげる」

 しなだれかかるように身を寄せる悪魔の囁きは、どこまでも甘美でかぐわしい。
 熱が、迫り上がる。体内から湧いたそれは、臓腑を焼き、さらに迫り上がって温度を上昇させていく。


「っ、消えろ……!」


 光が、ヴァリオルの全身から弾けた。


「きゃああああ………………!!」


 吹き飛ばされたアリムの身体が宙を跳ね、地面を転がる。
 光の余韻が残る中、体力を振り絞って体勢を整えたヴァリオルは、対峙する悪魔と睨み合う。

「俺にもまだ、お前を消し去るくらいの力は残っている」
「私は望みを叶えてやろうと言っているのに……っ!!」

 右の手に渾身の力を込めた光の珠を拵え、眇めた目で狙いを定めた。

「死にたくなければ失せろ!」

 どこまで効くかは正直なところ分からなかった。それでも、女神の加護を裏切り恋人を傷つけて、このうえ天使としての自分を自ら消し去る行為を犯すわけにはいくものか。
 生命力も何もかも根こそぎの自分すべてを載せて、放った。

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