愛で壊れる世界なら、
「ねぇミア。地上を覗いてみて」
そっと両肩に触れた手が、遠く臨める景色を見るべく丘の端へと促す。丘といっても地上とは異なり、地面を支える雲の下には何もない。いくつもの薄雲を抜けた遥かな先には人間の住まう世界があり、目を凝らしたなら微かに下界が見えてくる。
あのどこかにいるはずのヴァリオル。確かにここからなら誰に憚るでもなく探し見守ることが出来るかもしれない。
雲間を透かし見ようとしゃがみ込む。あの茶色く見える大地を歩いているのだろうか、緑に見える草地か森林地帯を分け入っているのか、それとも青く見える水辺で一息ついていたりするのだろうか。
地上でどうにか生きているはずの恋人に思い馳せていると、セルフィルが隣に並ぶ。風がさわさわと草花を、二人の髪を、揺らし吹き抜ける。
「私ね、ミア。今のミア、見てたくないんだ」
傍らから向けられる静かな声に、ミアシェルの胸が詰まる。
「今のミアなんて、大嫌い」
誰よりそばに寄り添ってくれていた彼女の失望を教える、いつものやわらかなあたたかさのない、平坦な声音。
心臓が縮むように痛み、涙が込み上げる。でもそんなこと、そう思わせたのは自分だ。泣く資格もないと唇を噛んで漏れ出そうになる嗚咽を堪える。
「こんな白い翼なんて、いらないよね」
俯く視界に落ちてきた影。ミアシェルは耳を疑いつつも不穏な空気に顔を上げる。見上げた隣には変わらずセルフィルが立ち、しかし、そこに浮かぶ表情はミアシェルの知るどれでもない。
妙に胸が騒ぎおずおずと腰を上げる。風が髪を巻き上げて、向かい合う二人の視線を遮った。キラキラとした、陽の光を受けた髪の煌めきだけが目を奪う。
――途端、走った激痛に悲鳴が上がる。
くずおれたミアシェルは何が起きたのか分からずに、浅い呼吸を懸命に繰り返す。何故だか背中が燃えるように熱い。仰ぎ見るセルフィルの姿も溢れ出る涙で歪む。
「ほら、これでヴァルとお揃いだよ」