愛で壊れる世界なら、
「セフィー! ねぇセフィー……!」
「なあに、ミア」
「うー、セフィー……」
今にも泣き出しそうに涙のたまった目をして羽ばたき寄ってきた友人を、セルフィルは慌てて受け止めた。頬を赤く染めたミアシェルのぎゅっと瞑られた目尻から、一筋、涙が流れた。
ミアシェルのしがみつく力は存外強く、落ち着かせるために背中なり頭なりを撫でてやりたいセルフィルの動きを華奢な腕が阻む。
「ヴァルと出掛けてたんでしょう? ミアを泣かせるなんて、お説教が必要かしらね」
「や、ダメ! 違うの、ヴァルが好きって言ってくれたのっ!」
「そんなところだろうと思った」
焦って顔を上げたミアシェルの懸命さが可愛い。微笑むセルフィルを、澄み渡った空のような瞳できょとんと見上げる様がまた、彼女の微笑みを深くする。
もう何年、何十年、いや、何百年と、友人として時を過ごしてきたミアシェルが恋をしていると、気付いたのは本人ではなくセルフィルだった。仲間内の一人であり長く交流のあったヴァリオル、彼を前にするといつからかミアシェルの挙動がぎこちなく、それでいて一層愛らしさが増して見えていた。傍から見れば二人して意識し合っているのは丸わかりで、微笑ましく見守っていたのはセルフィルだけではない。
いつかこの二人の想いが繋がることはわかっていた。そのくせ、当人同士は気付かないというそんな状態をずっと見せられて、もどかしい思いをし続けていた。
ようやく、その日が来たのだ。大切な友人の、恋が叶う日が。
「おめでとう」
セルフィルは心から祝福した。
白くやわらかなミアシェルの頬を手のひらで包み、目と目を合わせ、微笑んで。
「セフィー……!」
髪をふわりと風になびかせるミアシェルは、最近ますます可愛くなった。綺麗になった。陽射しを受けて、髪も目元もキラキラと輝く。
親友からあたたかく祝われた彼女は、感極まって改めて抱きつくのだった。