愛で壊れる世界なら、


「そしてあなたにも罰を与えねばなりません」


 そんなことは構わない。もとより我が身などなげうつくらいの気持ちで犯した罪だ。
 女神の存在感に圧迫され押し潰されそうになりながら、息も絶え絶えに下される沙汰を待った。


「あなたは彼らの死を、見つめなければいけない。それがあなたへの罰」


 彼らの死。――重い一言に、内臓から絞られるような痛みに苛まれる。


「彼らはあと百年も生きてはいられないでしょう。あなたはその倍も、それ以上も、生き続けますね。あなたは彼らが世界から消え去っても生き続けていくしかない。天使と人間の一生は、交わることはありません」


 理解し、ハッとしたセルフィルは女神の煌めく目と目が合った。無礼だと思い至り目線を逸らすものの、思いのほかあたたかさに満ちた眼差しだったことに、胸が熱く震えた。
 女神は友人たちを人間として添い遂げさせてくれようと言うのだ。なんということだろうか。全員に死を与えてもおかしくはないというのに。慈悲深さに自然と頭が下がる。


「覚悟はありますか?」

「――はい。私は二人の子を、孫を、この命が尽きるまで、見守り続けます」


 穏やかな風が吹いていた。さわさわとやわらかに草木を揺らし、涙をそっと運んでいく。
 生きる世界が別れても、これから先、二度と会うことは叶わないとしても、この風のように彼らに寄り添っていけるならと、セルフィルは微笑みを浮かべた。

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