愛で壊れる世界なら、
「――わあ!」
初めて見る空の青さに目を奪われた。どこまでも高くそして眩しい。エルザは感嘆のため息を吐き、知らない世界へと飛び出した。
地上とローディムとを繋ぐ門をくぐり、鬱蒼と茂る森を抜けた先に広がっていたのは、一人想像していたよりも遥かに色鮮やかで見惚れるほどに美しい景色。
地面には小さな小さな生き物がいて、緑は艶やかで草には花が、木々には実がなっている。風は優しく肌を撫で、ローディムとの違いを考えようにもあまりに違いすぎて言葉にならない。
だだっ広い大地に立ち頭上を見上げる。ぽかりと口が開いてしまうけどどうせ誰も見ていないのだから気にしない。
青々とした空には幾ばくかの白い雲。ほどよく太陽を隠してくれていることにほっとする。燦々と降り注ぐ陽光に触れたらどうなるかと、それは悪魔の子らが幼い時分に散々大人たちによくよく言い聞かせられることだ。外界に出た興奮のあまり考え無しにどこまでも駆けてしまいそうになっていたが、今のところ何の異変もないとはいえ念の為気をつけようかなと、頭の隅で考えた。
それにしてもズルい。
地上は酷いところだと、大人たちが言っていたことも、ある意味頷ける。
ローディムなんて年がら年中薄暗くて、火を焚かなければ明るくなんてならない。そんなところで生まれ育って、おかげで夜目はきくが、空気も薄いし、暗いから広さもはっきりとは分からないものの、なんだったら住民全員顔見知りかもしれない程度にはたぶん狭い。花らしい花だってほとんど咲かない。
ズルいなぁ。そうは思っても、帰るところは他にないし、何より大好きな姉が待っているのだから、今だけは存分に楽しもうとエルザは気の向くままに足を進めた。
陽光を警戒しながら、陰れば翼で翔け空からの眺めを堪能し、光が強く差せば木陰を歩んであちらへこちらへと探索する。
木々を抜けた先、見つけた泉に感動して駆け寄って、胸の高鳴りに従い思い切って素足を浸した。ぱしゃ、ぴしゃん、水飛沫がキラキラと舞う。……その様を見つめていたエルザの背後で、ガサリ、茂みが揺れた。