愛で壊れる世界なら、
ギリー、ギルウェルが笑顔で手を上げ、気安く声をかけてくる。
そう、もう何度目になるか数えるのもやめてしまった程度には、二人は顔を合わせていた。ここで、こんな風に。
そうして自然な動作で隣に腰かけるものだから、拒むに拒めず、わざとそっぽを向いてみせるくらいしか出来ない。悪魔と天使という間柄、距離を置いた方がいいのだとは分かっているのに。
真横でそよそよと揺れる白い羽。触ったならきっとふわふわしていて気持ちいいに違いない。悪魔の翼は筋張っているから、全然違う手触りのはずだ。
「光をあったかいって感じるのは、天使も悪魔も関係ないのか」
目を細めて暮れかかる空を見上げるギルウェルの姿は、徐々にやわらかな赤みを帯び、これまでに見てきたものよりさらに綺麗に見えて、なんだか目が離せない。
「……人間も、そうだもんな」
何事かを呟くギルウェルの視線がまっすぐ前を向いているのをいいことに、エルザはその横顔をじっと眺めてしまう。
自分とはまるで異なる存在だ。髪も瞳も、翼も、過ごしてきた環境だって、何もかも。天使と悪魔では考えるまでもない。
それなのに好ましいと感じるのは、地上で初めて目にした存在だから、ひな鳥の刷り込みという習性のようなものでも起きているのだろうか。
分からない。分からないけど、隣り合って他愛ない言葉を交わすこの時間がことのほか心地よくて。
「ん? どうかした?」
振り向いたギルウェルに穏やかに微笑まれ、跳ね上がりそうに驚く。
「えっ、その、ギリーはいつもここで会うけど、なんでかなって」
「……そうだなぁ。俺がこの辺りに来る理由はいろいろあるといえばあるんだけど」
「いろいろ?」
「そう。いろいろ」
曖昧な答えに首を傾げるエルザに、ギルウェルは楽しげな微笑みを見せる。
「そういえば初めて会った時は何かを探していたんでしょ?」
「ああそっか。エルザにはあの日見られてたんだよね」