愛で壊れる世界なら、

天使の贈り物






「空が青くて、風がやさしくて、ふふっ、素敵なお天気ね」


 教会の花壇に水やりを終えた少女が、満面の笑みで空を仰ぐ。淡い茶色の髪が風に吹かれ、肩で踊るように揺れる。
 ギルウェルは屋根の上で抱えた膝、頬杖をついて彼女の様子を眺めていた。人間である彼女に天使の姿は見えない。だから顔見知りにさえなれないけれど、毎日のように会いに来てしまう。

 空が青いのも、風が吹くのも、神々の恩恵とは考えても、そんなものは当たり前だと思っていた。そんなギルウェルの考えを覆すように、少女は青空に笑顔を見せ、曇れば過ごしやすい天気だと笑い、雨が降れば植物がよく育ちそうだと、すっかり日に焼けた愛嬌たっぷりの顔で笑う。

 晴れの日も、雨の日も、楽しそうに過ごす彼女を見ていた。単純な人間、そう思いながら、日に日に目が離せなくなっていく自分を感じていた。

「あら、何かしら」

 パタパタと動き回っていた彼女が、いつもひと休みしている花壇そばのベンチの上で、輝く何かを拾い上げる。

「綺麗な石……神さまからの贈り物かしら」

 彼女、シャルアが無事見つけてくれたことに安堵して、ギルウェルは一人満足気に笑む。

「……それはね、俺からの贈り物だよ」

 身寄りのない彼女は教会前に捨て置かれていた過去があるようで、ここで手伝いをして暮らし、外でもいくつかの仕事をするという働き者だった。子供たちにも慕われ、村の人間たちに可愛がられている。信心深くもあり、毎日礼拝を欠かさない。
 捨て子だったことも、やむにやまれぬ事情があったのだろうと親を責めるでもなく、神に与えられた試練なのだと微笑む。

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