愛で壊れる世界なら、


 シャルアという少女は、知るほどに健気で美しい。

 何かをしてやりたくて、かといって神からの命令や指示もなく振るえる力も持たず、ただ見守るしか出来ない日々。
 可能ならば、誰よりも着飾らせて、大きな家を用意して、もう食べられないというほどに美味しいものを食べさせたい。彼女が望むものがあるのなら、そのすべてを叶えてやりたかった。……許されるはずがないけれど。

「……ほんとに綺麗」

 小石を持ち上げ空を透かし見るシャルアの微笑みに、ギルウェルの胸はいっぱいになる。新緑色の瞳がやわらかに輝いていて、焦がれる想いを吐息にのせて吐き出した。
 せめて。せめて、自分が綺麗だと思うものをあげたいと思った。
 それを同じように綺麗だと思ってくれたなら、そうして持っていてくれたなら嬉しいと、それだけで満足だと、自分に言い聞かせて。

「お花も綺麗に咲いて、こんなに綺麗なものも見つけられて、今日はなんていい日なんでしょう」

 にこにこと笑うシャルアはポケットから取り出した巾着袋に小石を丁寧に仕舞い、ベンチに腰を下ろす。
 少し離れた場所で元気に駆け回る子供たちを眺めながら、手元の籠に入っていた布類を膝の上に広げ繕い始める。おそらくは教会に併設された孤児院の子供たちの服だ、これまでにも見てきた光景のひとつ。

 しばらくそうしてから次は食事の準備に取り掛かることも知っている。時にはみんなのための料理を作るだけ作って、食べる時間を惜しむようにして仕事や頼まれごとをこなす。
 一生懸命だ。命のある限り懸命に生きている。他人を思いやることが自分のためだと本心から言い切るような少女だから、目が離せなくなる。もう離せない。


「神さま、天使さま、今日も感謝致します。明日も素敵な一日になりますように」


 光があたたかいと、素晴らしいものだと、思えるようになったのはシャルアと出会ったから。
 決して裕福で幸福な人生ではないだろうに、そんな中でもささやかな幸せを見つけては、穏やかに健やかに、彼女が生きているということがこんなにも愛おしい。

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