愛で壊れる世界なら、
「エルザ?」
どうかしたの、と逆に問いかけられても、エルザ自身よく分からない。考えがまとまらない。だから言葉にならない。
ギルウェルが心配そうに顔を覗き込む。
「何か嫌なことでもあった?」
……不愉快なことばかりだ。
エルザが無意識に逸らしていた目を上げると、思っていた以上の間近で視線が絡む。深い藍の瞳。優しく穏やかな色に、含まれる気遣い以上の何らかの感情は見つけられない。
悔しい。ギルウェルがためらうところなく近付くのは、彼に他意がひとつもないからだ。そんな部分に好ましさを感じていたはずなのに、今はそれすらも不愉快な気分だ。自分ばかりが、自分だけが心を乱す。
沈んだ気分でその目を睨む。彼は不思議そうに瞬く。
「……天使は博愛主義だと思ってたけど、あなたは違うのね。でもそれもそうよね、本来そこに悪魔は含まれない、天使らしい天使が悪魔と仲良くしようとなんてするはずがないもの」
「どうしたんだよ、エルザ。俺は悪魔じゃなくて、君だから友達になれると思ったんだよ?」
「ギリーはいつも綺麗事ばっかり。あたしなんかに本心は明かさないだろうけど」
涙が滲むのを堪えて腰を上げる、ちらりと振り返るとギルウェルは眉尻を下げ、戸惑いをあらわにエルザを見上げている。
「俺はエルザに嘘ついたりしない。そもそも天使は嘘がつけない」