愛で壊れる世界なら、
嘘。ウソウソウソ。うそだ。
友達だなんて言って、またねといつも再会を約束するように別れて、それが心底嬉しかったのは自分だけだったのだとエルザはもう知ってしまった。
何度も空から地から、通りかかったことのある村。ここからどこよりほど近い村で、それを見つけた。彼の気配のする少女。
その気配はとてもとても微かで、風が吹けば掻き消えてしまいそうなほどではあったけれど、たびたび顔を合わせていたエルザにとっては間違えようのないものだった。
優しい天使の少年が会いにきているのは、ひとりぼっちの悪魔の少女などではなかった。
「ああ、嘘じゃないのかもね。肝心なところを隠してるだけ」
どうしてこんなに痛いのだろう。どこが痛いのだろう。
「どうせあたしは汚らしい穢らわしい悪魔だもの」
どこともつかない箇所からじくじくとした痛みが走り、どろりとした何かが流れ出ていくようだ。目の前が暗く霞んでいく。
この世界はなんて綺麗で、なんて酷いのだろうか。
あんなに輝いて見えていたのに、これでは慣れ親しんだあちらの世界の方がよっぽど明るいくらいだ。
「エルザ! 何を怒ってるのか知らないけど、自分のことをそんな風に言うもんじゃない!」
ギルウェルが眉間に皺を寄せ窘めよう宥めようとしても、エルザにはすべてが上っ面に思えて。
伸ばされかけた手を振り払う。睨みつける目元に力がこもっていく。
ただ光の中へ出てみたかった。それだけだったから、どこへ行きたいだとか、誰と親しくなろうだとか、そんなものは最初からなかった。
無力な人間はこちらに気付かないのだから相手にする必要もないし、動物たちはそれぞれに生きているだけ。そう言い聞かせられて育ったから、地上で関わりあいになるものなど出来る予定なんてなかったのだ。
あの日あの時、偶然にも、彼に出会いさえしなければ。
空も、風も、花も、光も。不快でしかない。
「……あたしなんかいらないくせに」
いつの間にか太陽は沈みきり、ざわざわと葉音が静寂を揺らす。夕闇の中、エルザの瞳が鈍く光る。赤く、暗く、血のような色で。
人間なんて毒にも薬にもならないと聞いていたのに。
――――毒だ。